研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
18H05471
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
多田隈 建二郎 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (30508833)
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研究分担者 |
古川 英光 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (50282827)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 機構 / メカニズム設計 / 駆動 / 柔剛切替 / トーラス |
研究実績の概要 |
本研究では,より短時間で高い速度で伸展・分岐を可能とする構造として,「ヒモムシの吻構造」に着目した.また,トーラス構造の伸展動作と湾曲動作を両立させる手法として,円筒膜の蛇腹折りとローラ,ワイヤを利用した方式を提案した.従来の方式は大直径化が困難なことや大きな曲率が生成できないこと,3次元的な全方向湾曲が困難なこと,袋の厚さにより繰り出しの抵抗が大きくなること,内部構造と袋との間に摺動が生じること,湾曲動作と伸展動作の同時生成が困難なことが課題となっていた.そこで,本研究では蛇腹折りした円筒袋とその内部のワイヤ駆動式の湾曲装置で構成される機構を提案した.蛇腹構造により,ワイヤ牽引時に大きな曲率が期待できる.また,蛇腹構造は湾曲装置の外周に設けられた複数のローラを袋に押し付けて突っ張ることで生成する.このため,湾曲時でも袋は内部の装置のローラとのみ接触し,袋の伸展動作時の摺動抵抗が軽減される.円筒形状のウレタンシート袋を試作し,その内部でローラを突っ張らせて折り目の“山”を作り,全体として袋を蛇腹折り形状とした.第一段階での具現化においては,試作簡易性を重視し,断面が矩形になる蛇腹折を採用した.湾曲や袋の繰り出し動作でも大きな抵抗なく動作できることを確認した.また,分岐を構成する方法に関しては,自己修復性材料を用いてトーラス構造を構成し,自ら切断しては修復する機能を備え付けることで,一旦切断されたところから伸展し,最終的には周囲の部材と融合して枝分かれ構造を構築することが可能になると考え,その機構の元として,2次元ファスナ機構なる切断・修復機能を備えた機械要素や破損部を修復するロボット血管などの修復材搬送機構に関しても考案し,そのアイディアに基づき実機具現化を進めている段階にある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記の理由により,区分としては上記の内容が妥当であると判断している. (1)湾曲トーラス構造に関しては,概ね順調に進んでいる. (2)分岐トーラス構造においては非常に挑戦的案テーマ設定ゆえ,まだ課題は残るものの,植物という観点ではなく,従来のバイオミメティクスでは取り組まれた例がない,ヒモムシ吻構造への着目による,生物学的解明と工学的応用という,分岐トーラス構造のテーマ拡張. (3)分岐部という非常に挑戦的な構造生成のために,自己修復性材料に着目し,それにより,単体でも十分成り立ちうるレベルのテーマ設定として,2次元ファスナ機構や,ロボット血管などのアイディアを創出した点.これらは,「破けたとしても能動的に自己修復する」という,これまでのソフトロボットの最大の課題であった柔軟ボディの破損という問題を根底から解決しうる画期的なアイディアである.ソフトロボット学の学術的な底上げに貢献することはもちろんのこと,当研究チームが考案・具現化を精力的に進めている,ソフトロボットへの耐切創・高耐久性の布袋カバーとのテーマの組み合わせ,発展の流れとしても非常に相性がいいものであり,これからの本領域における大きな道筋を明確に示すことができたアイディアとなっている点は評価に値すると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,柔剛切替メカニズムの基礎,耐切創性布袋カバーに加え,ロボット血管を1つの柱と据えて,分岐トーラス構造の実現を目指す.ロボット血管においては,生物の血液における血小板の機能を工学的に機能抽出したうえで,速乾性をより上げることや,乾燥後の強度をさらに高めるなど,人工的にその機能を拡張させたものを実現できるようなテーマ設定とする.例えば,生物には不可能であるが,人工的には2層同心円状に血管チューブを配置することなどは,工学的には十分に可能であり,その対称性は,傷の深さにより治り具合を変えることができるという点でも効果的で意味のある構成となる. また山形大学の古川英光先生の研究チームとの共同研究において,粘性が限りなく低く,速乾性があり,乾いた後にも柔軟性を有する液体素材の開発に取り組み,これをチューブ状の構造に流すことにより,より破損時の迅速な修復機能を実現できるものとみて,研究を促進していく予定である.
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