研究実績の概要 |
本年度は、まずは本研究計画を遂行する上で必要となるReservoir Computing(RC)の理論的な側面について研究を行った。特に“やわらかさ”がRCにおいてどのように表現されるのかに関して、RCにおける記憶容量[T. Haruna, et. al., PRE, 2019.]ならびにEcho state property(ESP)[M. Komatsu, et al., IJRR, 2020.]の観点から検討した。また、やわらかい身体と脳のカオスが融合することで非常に効果的に学習が実現されることも明らかになり、アイディアの素描を兼ねて学会論文の形で発表した[K. Inoue, et. al., Proc. of MHS2019] 。次年度以降に、この発見をより大きく展開していく予定である。実験に関しては、Physical Reservoir Computing (PRC) におけるopen-loopの設定で、複数の実験を開始している。まず、研究分担者の開発したフレキシブルセンサーを用いたソフトマテリアル計算機の実装に関しては、現在系統的な実験が一通り終了し、結果をまとめている段階にある。また、やわらかいデバイスと機械学習やRCとの融合を導入した研究も行い、多数の企業ならびに他大学との共同研究も実現し、いくつはすでに学会論文の形で発表した[R. Sakurai, et. al., Proc. of RoboSoft2020; K. Wakamatsu, et. al., Proc. of RoboSoft2020]。その他、国際学会において、PRCに関する多数の招待講演を行った。また、IEEE Robosoft2019において本新学術領域のプロジェクトをテーマとしたワークショップを企画し、世界的に本領域の活動をアピールした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物において、身体のやわらかさというのは普遍的にみられる特性である。これまでの先行研究によりこのやわらかい身体が、ESPを持つフィルターとして計算資源になることがわかってきている。一方で、それらやわらかい身体に包まれている脳は、高次元の非線形力学系であり、カオスなどの複雑な挙動をしめすことが知られている。これら二つの特性は、かたやsoft robotics、かたや神経科学において、普遍的な特性との共通見解があるものの、脳-身体系としてそれら二つが合わさった形で自然界に存在する理由に関しては、いまだ議論がなされていない。この点に関し、我々はカオスを積極的に使ったRCにおけるinnate trainingという学習手法に着目し、やわらかい身体に入力をいれた際に付与されるmemoryを介した応答(この特性の抽象的な機能として、input reservoirという概念を提案した)がカオスに投射される際、このinnate trainingの効果が飛躍的に向上することを示した[K. Inoue, et. al., Proc. of MHS2019]。この結果はやわらかい身体と脳におけるカオスの組み合わせの機能的な意義に関して、一つの示唆を与える。また、入力に強く駆動されたリカレントニューラルネットワークにおいて、情報流最大化に基づいて事前学習を施すと、入力からdelay lineのような結合が自己組織することを明らかにした[T. Tanaka, et. al., Neurosci. Res., 2020]。この構造は、外界と乱雑なダイナミクスの間にインターフェースが生成していることを示しており、input reservoirの生成機構であることが示唆される。実験に関しては、人事の異動やプラットフォームの設営の遅れなどがあったものの、多くの共同研究にも恵まれ、概ね予定通り進んでいる。
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