研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
18H05473
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
前田 真吾 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (40424808)
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研究分担者 |
澤田 秀之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00308206)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ソフトロボット / ソフトマテリアル / ゲル / オリガミ / 自律駆動 |
研究実績の概要 |
本研究グループではしなやかな知能を実現するために「ストカスティック」をキーワードとして,様々な方法を探求している.化学反応,マテリアルの物理化学的性質や機械的性質等に着目して研究を進めている.本年度は主に次の研究を推進した.(1)BZ反応と化学的にカップルしたゲルの数理モデル(2)BZゲルを駆動系と環境を物理的に分離した仕組みの構築(3)液滴の自走現象とその運動制御(4)SMAワイヤの高速応答性とソフトロボットへの展開(5)自律駆動するゲルモータの開発(6)インクジェット印刷によるオリガミの運動制御(7)誘電エラストマーアクチュエータ用のCNT粉末電極の開発と信頼性評価 (1)ゲルのダイナミクスを非常に簡素化することでBZ反応の周期や振幅を解析的に記述することに成功した.(2)駆動系を分離したポンプを実験的に実現することに成功した.(3)液滴の自走現象とその運動制御について研究を進めてきた.無水オレイン酸の加水分解反応と界面活性剤が共役することで,油滴内部にマランゴニ対流が発生して油滴が自走するが,これに外部から物理刺激を与えることで,液滴の運動制御を試みる.これまでに,液滴の形状および温度と湿度を制御することで,運動の方向と速度を変化させることが可能であることを示した.(4)SMAワイヤの高速応答性とソフトロボットへの展開について,研究を進めてきた.これまでに高速振動を生成する手法ならびに,外部から与えられる微小応力をセンシングする手法を見出した.(5)マランゴニ効果によって駆動するゲルモータを開発した.(6)液体の乾燥によって,紙が変形することに着目した自律的な立体構造形成手法を構築してきた.本研究では,乾燥の順序を制御することで自律的な紙の運動生成に成功した.(7)誘電エラストマーアクチュエータ用の伸縮性電極を製作するための簡易的且つ再現性が良い手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ゲルの緩和が化学反応に対して十分速いとして,ゲルのダイナミクスを記述した.振動性が現れる条件を明らかにし振幅や周期を解析的に求めた.(2)BZゲルの熱力学サイクルが最大化するように力学的な境界条件を明らかにした.さらにBZゲル系と環境を薄膜で分離することで環境に設置した作動溶液を駆動させることに成功し,マイクロポンプ化にも成功した.(3)2020年度は、自走時の油滴の形状と内部のマランゴニ対流,溶液の温度と湿度に着目し,これらを様々に変化させながら自走状態を観測し,物理条件との関連を考察した.その結果,油滴形状,溶液の温度と湿度の条件によりマランゴニ対流が変化し,自走形態の変化に繋がることを示した.(4)Ti-Ni-Cu系SMAワイヤについて,その高速伸縮動作と時間応答を精密に測定することで、高速変態の特性解析と考察をおこなった.微細ワイヤの特徴を生かし,微小振動パターンによって様々な触覚感覚を人工的に創り出して触覚伝送を可能とする技術の開発を進めた.また,魚の柔軟な泳動動作を再現するためにSMAワイヤを応用し,Fishrobotの構築と制御を可能とした.(5)ゲルをニトロベンゼンで膨潤させ,界面活性剤を用いたマランゴニ効果によって,ゲルが自発的に運動することを見出した.円錐状ゲルを合成し,回転運動を実現しゲルモータを開発した.(6)紙から液滴が乾燥する過程で,紙が変形する角度を制御することを試みた.紙の折曲がり角度を決めるための液体の射出はインクジェット印刷をすることで実現した.この印刷工程を紙に対して複数個所印刷し,紙の自律運動を生成した.(7)誘電エラストマーアクチュエータを製作するための簡易的且つ再現性が良い手法を提案した.CNTを直接エラストマの表面に刷毛で塗布する方法を考案し,自動化の目途を立てた.
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今後の研究の推進方策 |
(1)BZゲルの反応中間体の拡散の効果を取り入れたモデルの検討を行い,より実験に近い条件を探求する.さらに複数のBZゲルが連結した系についての振舞を検討する.(2)自己フィードバック可能なポンプの仕組みについて実験的に検討する.また,SMAアクチュエータを用いて外骨格の形状と溶液温度を動的に変化させることで,油滴の自走制御へと発展させていく.更に油滴の自走制御を、スタンドアローンで移動して注入まで行うドラッグデリバリーシステムの確立へと展開する.(3)各種環境要因,濃度依存性,内部対流との関連を詳細に解析して,駆動原理の理論化につなげていく.(4)様々な触覚感覚を人工的に創り出して遠隔地へ伝送できる触覚ディスプレイ,ロボットに搭載して遠隔地の触覚感覚を計測する触覚センサ,柔軟な動作を再現するソフトロボットへの展開を進める.(5)poly-(2-methoxyethyl acrylate-co-butyl methacrylate)ゲルが何らかの化学走性を示すようなシステムを構築したい.合わせて数理モデルも検討する.(6)センサ等を印刷することで,情報処理可能なペーパーメカトロニクスを目指す.(7)伸縮性エラストマセンサを本手法で実現し,情報処理系とシステムインテグレーションを目指す.
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