研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
18H05477
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
染川 英俊 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (50391222)
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研究分担者 |
戸高 義一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50345956)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | キンク / マグネシウム / 材料プロセス / 強ひずみ加工 / 力学特性 / 微細組織 / ミルフィーユ構造 |
研究実績の概要 |
昨年度確立したキンク強化を識別できる手法(マイクロビッカース硬度試験による局所力学評価)を活用し、各種高次塑性加工バルク材のキンク強化とキンク組織の相関性について検討を行った。なお、昨年度と同様、LPSO基Mg合金で認知されているMg-Y-Zn合金を対象とした。 「キンク強化に貢献する形態と構造」に関する課題では、キンク間隔とキンク数密度が影響因子であることを明確にした。多様な条件下でキンク導入したバルク材の局所力学応答を評価した結果、加工法に関係なく、キンク間隔が緻密であるほど、キンク強化寄与が大きかった。この緻密化効果は、加工温度に影響を受け、加工温度の低温化にともないキンク強化への寄与が増大した。変形組織観察の結果、キンク界面に蓄積する残留転位に起因することが分かった。他方、金属材料の内部組織や特性は、通常、塑性加工時のひずみ付与量と密接な関係がある。導入ひずみ量(今回は圧延回数)が同じでありながら、溝ロール圧延時のビレット挿入方向を調整することで、内部組織(キンク数密度)が制御できることを明確にした。力学特性評価試験の結果、キンク数密度の増加とともに強度・硬度特性が向上することを確認した。 「キンク導入の最適プロセス」に関する課題では、有限要素解析の結果と昨年度の系統的な硬度測定の結果と比較することで、せん断付与がキンク導入とキンク強化に有効であることが分かった。一方、キンク導入には臨界ひずみが存在し、微少ひずみ付与ではキンク消滅することを究明した。これは、効果的なキンク導入化を検討するうえで極めて重要な知見である。 上記の両課題を通じて、キンク組織の定量化は、最適プロセスと最適キンク組織の架け橋となる大事な課題である。本年度は、キンク体積率の定量化について注力した。汎用法である点算法によって、簡便に試算できることを究明している点も特筆した成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、「キンク導入の最適プロセス」と「キンク強化に貢献する形態/構造」を明確にすることを標榜している。前者では、せん断成分だけではなく、ねじり成分の付与が有効であることを究明した。後者では、キンク間隔とキンク数密度が強化影響因子であることを解明した。また、キンク組織の定量化(本年度は体積率)についても検討し、組織観察時の点算法の併用は、汎用性が高く効果的な手段であることを明確にした。これは、次年度以降の研究加速にもつながる大きな成果である。コロナ禍による不自由な研究活動下であっても、例年どおりの成果取得と、学会発表や学術誌発表などの外部発信にも至っていることことから、「おおむね順調に進んでいる」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた知見を深化させるべく、次年度は、キンク強化影響因子の更なる探索と、効果的なキンク導入プロセスの実証を主課題とし、次の三点について注力する。 第一に、各種高次塑性加工バルク材の塑性ひずみ量とせん断量に対するキンク数密度との相関性について議論する。また、キンク消滅機構にも着目し、キンク導入に必要な最小塑性ひずみ(またはせん断)量の導出について検討し、キンク導入に及ぼす高次塑性加工「微視的」因子探索の深掘りを図る。また、昨年度からの継続として、熱処理を活用したキンク界面構造制御と、キンク強化との関係についても調査する。 前項への援用を図るため、対象とするMg系物質群:Mg-Y-Zn合金の材料定数、特性を反映した有限要素解析を実施し、高次塑性加工に作用する塑性ひずみ(せん断)成分の定量、可視化を継続実施する。また、取得した計算結果と高次塑性加工法によって創製した実バルク材のキンク組織(体積率)やキンク強化(硬度)とを比較、検討する。 最後に、バルク内に引張・圧縮・せん断・ねじり成分を複合的に導入できる塑性加工法(次年度は、ねじり押出加工を想定)を活用し、キンク導入制御と更なるキンク強化の可能性について試作、実証する。
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