研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
18H05478
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
萩原 幸司 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10346182)
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研究分担者 |
岸田 恭輔 京都大学, 工学研究科, 准教授 (20354178)
榎 学 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70201960)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | キンク変形 / ミルフィーユ構造 / 変形モード / 強度 / その場観察 / 単結晶 / マイクロ試験 |
研究実績の概要 |
プロジェクト初年度である本年は,経験則的観点から提案されたキンク形成・強化のための「ミルフィーユ条件」の妥当性解明を実現するための研究基盤整備を着実に進めた.これに加えさらに各研究者が多くの実験を予定を前倒して遂行することで,ミルフィーユ材料の力学特性,特に本班で課題とする(A)キンク変形帯の形成,(B)これを介した強化機構に関する多くの知見を得た. (A)キンク帯を介した強化機構としては, LPSO相を主相とするMg89Zn4Y7(at.%)押出材に着目した力学特性解析により,キンク変形帯が実際に押出材の強化に直接的に寄与すること,さらにその強化程度が押出比の増加,すなわちキンク変形帯の量に依存して増加することが世界に先駆けて定量的に見出した.またさらに重要な点として,この強化には顕著な方位依存性があることが明らかにされた. また(B)キンク形成機構としては,キンク形成の動的その場観察手法を整備し,形成速度の定量評価が可能となった.さらにキンク形成とミルフィーユ構造との関連を明らかにするための重要な知見として,マイクロピラーを用いたTi3SiC2 MAX相の力学特性解明を実現した.Ti3SiC2相はLPSO相同様,室温より底面すべりが運動可能であり,その活動が抑制される方位での荷重負荷により,キンク変形が生じることを見出した.さらに高分解能STEMを用いた詳細な解析により,同相中におけるキンク界面は,底面転位の集団運動,同符号の刃状転位の配列により形成される小傾角粒界であるとする,転位ベースの形成機構モデルで矛盾なく説明できることを見出した.しかし一方で,LPSO相中との違いとして,頻繁にデラミネーション等が生じることを明らかにし,キンク変形帯をミルフィーユ条件に基づき強化につなげていくには,このデラミネーションの発現機構を解明し,抑制策を構築する重要性を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述のように,研究内容自身については当初の想定を上回るペースで多くの新規知見が得られており,極めて順調に計画が進捗している. また,大学の垣根を越えたミルフィーユ材料の力学特性解明,特にキンク変形帯の形成機構,これを介した強化機構の解明に向けた密接な共同研究実施に向け,参画研究者による三回の研究会を開催し,ベクトルを合わせた着実な研究推進がなされた.さらに他班の研究会にも研究者各自が積極的に参画することにより,グループ間の垣根を越えた議論を行い,今後のより密接な連携研究推進に向けた着実な基盤整備を行った.その成果として既に本年度において,A01班との共同研究による2本の論文発表にまで至るなど,当初想定を超える,多くの成果が既に得られている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度検討により,LPSO相以外の材料においても,ミルフィーユ構造を有する幾つかの材料において,期待通りキンク変形帯の発現が見出された.それら材料中におけるキンク帯の特徴,LPSO相中のそれとの差異を比較解明していくことにより,「経験的ミルフィーユ条件」の妥当性についてより精緻な検討を進めていく.この結果を踏まえつつ,本年度以降においてはLPSO相基材料におけるキンクを介した変形強化機構等に関しても,従来知見が不足している複相材中の挙動,また破壊,疲労挙動等にも着目しつつ,引き続き検討を進める.またLPSO相の合金組成についても,これまでのLPSO相単相材のみならず,Mg相を含有するY,Zn低濃度相へと調査対象を拡大することにより,ミルフィーユ材料のより広範な利用方策の確立を目指す.
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備考 |
当該研究成果による学協会での本年度受賞件数:4件
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