研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
18H05479
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 英司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70354222)
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研究分担者 |
波多 聡 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (60264107)
Stefanus Harjo 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (40391263)
相澤 一也 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主席 (40354766)
上椙 真之 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (20426521)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 構造科学 / 電子顕微鏡 / 大型量子線 / 3次元解析 / その場計測 / 格子欠陥(転位・回位) / 原子結合状態 / マルチスケール解析 |
研究実績の概要 |
本研究では,最先端構造計測法を駆使したキンク構造のマルチスケール精密解析により,キンク形成・強化メカニズムに迫る.キンクはどのようにして形成され,いかにして材料強化を実現しているのか - 我々は,これらを支配する「キンク素子」を見いだし,ミルフィーユ構造のキンク形成・強化メカニズム解明を目指す.令和元年度(2019年度)は,キンク導入Mg系ミルフィーユ構造試料を中心に計測・解析を行い,キンクメカニズムの理解を深める鍵となる重要な結果を得ることに成功した.主な成果は以下の通りである. (1) 最先端電子顕微鏡(SEM, STEM)により,ミクロンスケールから原子スケール(10^-5 ~ 10^-10m)に渡ってミルフィーユ型Mg合金中の硬質層分布,およびキンク分布のマルチスケール解析を行ったところ,これらが階層化(フラクタル化)されていることを示す結果を得た.このことは,単なる結晶粒界面とは異なり,キンク界面同士はあらゆるスケールで相互作用を持ちうることを示唆しており,extra strengthを生じる源となっていると考えられる. (2) キンク形成初期段階の微小回転(~1°)界面について,原子分解能STEM法と,ナノメータースケール分解能3次元STEMトモグラフィーを組み合わせることにより,特異な積層欠陥構造と溶質元素分布の3次元微視的構造を解明することに成功した. (3) 中性子回折により,ミルフィーユ構造Mg合金中における格子歪みマクロ分配挙動を解析した.また,アコースティクエミッション(AE)同時その場計測により,格子レベルでのひずみの応答とキンク発生による弾性波情報を得た. (4) 放射光X線回折を利用したミルフィーユ構造の3次元XRD法に関する解析手法を確立し,A03班との連携研究で予備的な観察結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子顕微鏡によるミルフィーユ構造Mg合金中キンク分布のマルチスケール解析から,キンク形成過程がフラクタル的に発展していることを見いだした.このことから,Mg合金の熱間押し出し加工中には,硬質層の生成とキンク形成が互いに相関しながら組織発展していく動的過程であるとする,極めて興味深いモデルを提案することができた.キンク形成が本質的にスケールフリーな現象であるとすると,キンクによる強化がMg合金のみならず普遍性を持って様々な材料へと展開可能なことが大いに期待される.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,「ミルフィーユ組織・キンク生成の動的過程」「高分子材料,セラミックス材料のバルク変形その場観察」を主題に掲げて取り組む.電子顕微鏡によるミクロ解析から大型量子線によるマクロ解析をより有機的に連携させ,キンクメカニズム解明へと着実に結びつけていく.マルチスケールでの結果を系統的・総合的に解釈できるよう,A03班との連携をより強化し,キンク理論の構築へとつなげる. (1) 最先端電子ビーム計測:(1-1)原子顕微鏡によるキンク変形その場観察に取り組む.ミルフィーユ組織とキンク形成の微視的動的過程を解明する.(1-2)格子欠陥分布を含めたキンク周辺の特徴的な構造を,原子分解能STEMと電子線トモグラフィー法の効果的な併用によって3次元的に解析する.特に,キンク変形初期段階にあらわれる多軸回転現象の起源を解明にしたい.(1-3)CBED法により,キンク近傍の局所的な格子回転の3次元解析を実施する.(2) 最先端大型量子ビーム計測:(2-1)ハイブリッド中性子回折法とAE測定を同期させ,キンク形成ダイナミクスのその場計測を実施する.今年度は高分子系,セラミックス系ミルフィーユ構造試料の測定を実施し,これら材料に於けるキンク変形の特徴を見いだす.(2-2)マイクロビーム放射光(<~10 μm)を用いたX線3Dトモグラフィー測定により,光学顕微鏡スケールで観察される大規模キンクにおける局所的な微小回転とマクロな大角回転とを系統的に解析する.
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