研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
18H05480
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
君塚 肇 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60467511)
|
研究分担者 |
板倉 充洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (90370353)
只野 裕一 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (00346818)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
|
キーワード | 加速分子動力学法 / 大規模第一原理計算 / 高次勾配結晶塑性論 / 結晶塑性有限要素解析 |
研究実績の概要 |
本年度は,最終目標であるミルフィーユ構造におけるキンク形成・強化のメカニズム解明に向けて,主として手法の構築・検証,計算機コードや計算機環境の整備を実施し,比較的単純なモデルを用いてこれらの有効性を検証した.具体的には,以下の5項目について研究を遂行した. (1) Mg系ミルフィーユ構造のキンク形成の原子レベル解析を実施するための準備として,統計力学と遷移状態理論を援用した加速分子動力学法を構築し,本手法を実現するための計算機コードの整備を進めた.本年度は初期解析として純Mgを対象とし,キンク界面との類似性が指摘されている{11-2n}双晶に注目した塑性変形素過程解析を行った. (2) Mg基LPSO構造の形成メカニズムならびにキンク界面の構造的特徴と化学的性質を明らかにするため,大規模第一原理計算を活用してMg中のキンクの原子構造および溶質原子との相互作用を評価した. (3) メゾスケールにおけるキンク形成・強化のメカニズム解明を目的に,高次勾配結晶塑性論を導入したメッシュフリー解析手法を新たに構築し,キンクおよびその周辺の変形場および応力場を数値解析によって評価した. (4) 多結晶体におけるキンク帯形成機構解明を目的として,Mg基LPSO構造一方向凝固材の圧縮負荷を模擬した結晶塑性有限要素解析を実施した.その結果,単純な加工硬化則を仮定した解析においても,先行研究において実験的に確認されている変形挙動を定性的に再現可能であることを確認した. (5) Mg系ミルフィーユ構造における溶質元素クラスター間相互作用の解明を目的として,Mg中のY-Niクラスター間相互作用に関する大規模第一原理計算を試行した.その結果,長距離側でわずかに安定となるクラスター間距離が存在することを見出した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を遂行するにあたり,「キンク形成原子論解析用並列計算機」(大阪大学),「キンク構造電子論解析用データ可視化計算機」(日本原子力研究開発機構),「キンク形成マルチスケール解析用並列計算機」(佐賀大学),「キンク形成結晶塑性解析用並列計算機」(熊本大学)を導入し,研究基盤を整備した.なお,本年度は関西国際空港の冠水に伴う物流停止の影響で並列計算機の調達・納品が遅れたことから(運用開始:平成30年12月~),当初予定した計算モデルの規模・種類を既存設備で解析可能な範囲に変更し,併せて研究計画を調整した. また,キンクの原子構造およびキンクを伴う力学特性の解析に際して,研究が密接に関連するA02班内およびA03班の関連研究者間で研究会を計4回実施し,実験的知見に基づく結晶幾何学的モデルや応力-ひずみ特性等の情報提供を受けるとともに,計算材料科学の立場から検証が必要なモデルケースおよび物性値に関して議論・検討した.また,国内の関連学協会において積極的に発表・議論することに加えて,異分野学会主催の研究会等の機会を活用して情報発信を行うなど,研究成果の広報活動を展開した.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,初年度に構築した研究基盤に立脚し,以下に挙げる課題に取り組むことで研究を推進する.これらは,Mg系ミルフィーユ構造におけるキンク形成・強化のメカニズムを解明するための重要な因子であり,他班と連携研究を進める上での基盤的知見となる. (1) 加速分子動力学法等の原子シミュレーションを活用したMg系ミルフィーユ構造の塑性変形素過程の温度・応力依存性の評価,ならびにキンクの幾何学的特徴を有した界面の形成過程に関する原子論的情報の獲得. (2) 大規模第一原理計算を活用した溶質原子による転位芯のトラップ効果の評価,ならびに溶質偏析によるキンク界面と転位の相互作用の変化に関する電子論的検討. (3) 高次勾配結晶塑性論に基づくメッシュフリー解析手法を活用したキンク形成の再現,ならびにキンク帯の介在による強化に関する定量的検討. (4) 結晶塑性有限要素法を活用したMg基LPSO相多結晶体の系統的変形解析の実施とキンク帯形成の支配因子の抽出,ならびに実験結果との比較を通じた応力-ひずみ挙動,変形帯の形成挙動等に関する定量的検討. (5) 大規模第一原理計算を活用したMg基LPSO構造における溶質クラスター間相互作用の系統的解析の実施,ならびに構造安定性に関する熱力学的情報の獲得.
|