研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
18H05481
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤居 俊之 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (40251665)
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研究分担者 |
中島 英治 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (80180280)
SVADLENKA KAREL 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60572188)
稲邑 朋也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60361771)
垂水 竜一 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (30362643)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | キンク形成 / キンク強化 / 回位 / 微分幾何学 / ミルフィーユ条件 / キンク界面 / 二次キンク |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果を記す. 藤居は,キンクを含むLPSO単相合金の二段圧縮試験中のひずみ速度急変試験により,変形の熱活性化過程を特定し,固溶原子による短距離障害物が変形支配因子であることを明らかにした.また,キンク導入後のDS材の室温塑性変形では,降伏直後からのキンクの塑性変形が開始されることを発見し,キンクを含むDS材の降伏支配因子を解明した. 中島は研究協力者と連携して,LPSO単相合金の二段圧縮試験により,キンクで転位すべりが明確に抑制され,キンク境界で転位のpile-upが生じることを示した.さらに,二段目圧縮の際に,既存キンク内に二次キンクの発生を伴った優先的なひずみの発達が生じることを見出した. シュワドレンカは,圧縮による層状構造の変形に伴うエネルギー変化を変分的なアプローチにより数理解析するとともに,紙束の圧縮実験との比較検証を行った.この計算手法は多様な層状構造をもつ材料のモデリングに応用可能であり,キンク強化に重要なミルフィーユ条件の理論的導出が可能となることを明らかにした. 稲邑は,ミルフィーユ条件が満足される基でキンクが変形する場合,必ず新たな回位が発生するとともに,複数キンクの連携的変形が必要となることをエネルギー変化量の見積から明らかにした.これら回位と連携的変形は,キンク変形特有の現象であり,キンクを含む材料において発現する強化機構となることも明らかになった. 垂水は,微分幾何学に基づく格子欠陥論による連続体力学の立場からキンク変形・強化機構の理論解析を進めた.これまでの研究成果は,(i)転位列を用いた多様なキンク形態の再現,(ii)転位と回位の等価性に関する数学的な証明,(iii)キンク界面の切断による大きな応力集中の発見と回位形成の定性的な関係の指摘,として集約される.特に(iii)はキンク強化機構として回位が重要な役割を果たすことを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究が掲げている異分野融合によるキンク強化理論の確立に向けて,本計画研究班内でもキンク強化に関連する実験を並行して進めてきた.キンクを含むLPSO単相合金の室温二段圧縮試験により,キンクを含む合金の変形の熱活性化過程が短距離障害物支配であること,また,降伏はキンク内の変形により生じること,さらに,既存キンク内で新たなキンク形成を伴って塑性変形が進行することを明らかにした.これら実験事実に基づき,Rank-1接続に基づく運動学的理論によってキンク強化の解析が進められ,キンクの変形の伴う新たな回位発生やキンク群の連携変形がキンク強化をもたらすことがわかった. 理論面での進捗として,微分幾何学に基づいて転位論と回位論を体系化した新たな統一理論からは,多様なキンク形態の連続体力学的表現が可能となった.さらに,キンク界面を跨いで生じる変形により発生する欠陥応力場解析が可能となるとともに,微分幾何学に基づく回位のフランクベクトルの定量解析を実現した.これにより,最終年度においては,回位の存在によるキンク強化量の定量的見積が期待できる. 今年度においても,新型コロナウイルス感染症の影響から,対面での研究集会は実施できなかったものの,ほぼ毎月,オンライン会合を開催し,情報交換とともに,キンク強化に関わる議論を深めた.弾塑性数理解析による一般化ミルフィーユ条件の導出に関しては,海外共同研究者との国際共同研究も進展し,キンク形成モデル実験との比較により,数理モデルの検証がなされ,論文成果に結びつきある. 以上のことから,研究当初に掲げた研究目的を達成するために,本年度は着実な研究成果をあげていると自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の推進方策を以下に記す. (1)中島を主担当として,キンク周囲の弾性応力場を実験的に定量評価し,キンクの特徴と強化量の関係を定量的に測定する. EBSD-Wilkinson法を用いたキンク周囲の弾性応力場解析と,微小試験片を用いた力学特性評価手法の確立により上記の課題を達成し,これまでに実施した全ての研究成果をまとめて,キンク強化理論の構築を目指す. (2)シュワドレンカを主担当として,弾塑性ダイナミックスの数理モデルを実装した数値解法によるシミュレーション結果を解析し,モデルパラメータに依存したキンク構造の特徴を調べ,実験結果と比較検証する.さらに,このモデルに層状構造を入れて,異なる弾塑性属性をもつ層の均質化を理論的かつ数値的に解析することにより,キンク形成・強化の観点からミルフィーユ条件の精査と定量化を行う. (3)稲邑を主担当として,キンクが底面すべりに切断される場合について回位と連携変形に基づく強化量を与える理論式を定式化し,実験との比較によってその妥当性を検証する.また,キンク内部が変形する場合についても強化量を定式化する.さらに,界面が湾曲したキンクの電子顕微鏡観察と運動学的モデル化を行い,実験で得られているキンク強化量に及ぼす湾曲キンクの効果を理論的に解明する. (4)垂水を主担当として,微分幾何学に基づくキンク変形モデルの解析と応用を進める.特に,キンクの形成にともなって生じる回位フランクベクトルを定量的に評価することで,キンクによる材料強化機構を回位論に基づいて解析する. (5)藤居を主担当として,キンク導入後のマグネシウム合金における降伏現象の理論的説明,すなわちキンク強化理論を提示する.さらに研究代表者として,班内のみならず班外の領域内研究者との連携も促し,キンク強化に係わる領域内のあらゆる知見を結集させて,体系的なキンク強化理論の構築を実現する.
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