研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
18H05485
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 淳司 京都大学, 農学研究科, 教授 (40183842)
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研究分担者 |
五十田 博 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40242664)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞構造 / セル構造体 / 構造解析 / コンピュータービジョン / 環境応答 / ハイグロナスティー |
研究実績の概要 |
過去4年間にわたり、メインテーマである「木質材料の構造力学的最適化による環境応答戦略の理解」に関連して、木質材料の構造を調べるための新しい手法の開発や、測定データの知能情報学的な取り扱いについて、いくつかの素材をとおして研究をおこなってきた。新しい手法としては、通常の偏光顕微鏡を改造し、複屈折現象によるレターデーション測定から細胞壁中のセルロースミクロフィブリルの傾角を算出する技術を立ち上げた。また、木口面顕微鏡写真から細胞毎に要素を自動抽出し、細胞壁の厚さや内径、面積などを自動抽出してデータ化する技術の開発も続けてきた。これらの技術の融合によって、木材の細胞が一年を通してどのように形成され、ナノ構造と組織構造がどのようにバランスをとっているか、解析するための情報基盤が整いつつある。素材としては、伝統工芸に用いられるサクラやカバの樹皮の脅威的な延伸特性をもたらす組織構造を明らかにしたこと、また、伝統的屋根工法の一つである「こけら葺」の板材の木取りと曲面形成に関する考察から、針葉樹材特有のセル構造が横方向の曲げ性能に大きく影響することを明らかにした。これらの研究は3編の原著論文として既に報告した。その他に取り組んできた、圧縮あて材内のセルロースの構造と機能や、木材の湿熱回復現象に関する細胞壁構造の影響などについても成果をとりまとめて公表する。 上記基礎研究課題に加えて、樹木の構造にヒントを得た木材を利用した新しい空間設計に関する応用研究も2年次半ばより継続して検討してきた。樹皮や落葉のように、建築部材が部分的に破壊・離落することで自重を減じることで、耐震性能をあげること、あるいは一般的には欠点と言われる木材の狂いを利用して、環境応答型の建築デザインを発案するなどに取り組んできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次の二つのテーマが進行中である 1)細胞毎変形挙動と力学特性との相関解析 伝統的屋根工法の一つである「こけら葺」の板材の木取りと曲面形成に関する考察を深める目的で、力学試験下における木材組織の微細構造を実体顕微鏡で観察しながら、応力ひずみ曲線を取得する治具並びに装置を試作した。また試験中のビデオ画像をデジタル画像処理し、細胞毎にセグメンテーションを行い、細胞毎の変形挙動を可視化する計算手法の開発に着手した。 2)木質材料の欠点ー樹木細胞としての機能ーを利用した自己形成素材の設計 湿度変化によって木材が変形することは、材料としての欠点ではあるものの、適切な素材は張り合わせたバイレイヤー構造を設計することによって、湿度制御可能なセンサー的な部材として利用が可能となる。居住空間における湿度変化を巧みに利用して、自己形成する材料の設計をを目標に、ヒノキとケヤキ、あるいはヒノキとカバノキによるバイレイヤー構造体の物性に関する予備実験をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
次の二つのテーマを進化させる。 1)細胞毎変形挙動と力学特性との相関解析 木材の全て物性の根底には「組織」あり、という基本的な考えに基づき、コンピュータービジョンと実験を巧みにデザインし、物性に影響する「かたち」を人工知能によって自動抽出し、物理実験と相関させて両者の関係を詳しく調べる実験系を立ち上げる。例えば乾燥収縮におけるマクロな変形を、組織レベルあるいは細胞壁レベルの変化と合わせて定量的に解釈する、あるいは曲げや引っ張り試験下の細胞形状を実時間で記録して応力ひずみ曲線との対応を見る。針葉樹2種類(ヒノキとスギ)、広葉樹2種類(サクラとポプラ)を細胞毎の変形挙動の解析実験に供し、樹種固有の構造特性を読み取ることで、木質材料の構造力学的最適化による環境応答戦略の理解」に迫る。研究成果は国際誌に投稿し、コンピュータビジョンに関するデータならびにソフトウエア関係は積極的に公開する。 2)木質材料の欠点ー樹木細胞としての機能ーを利用した自己形成素材の設計 本研究では、特に植物固有の構造や、その環境応答のメカニズムを直接活用し、かつデザインとしても利用したプロトタイプの提案を目指す。木質のバイレイヤー構造体を巧みに利用した、相対湿度に反応する環境応答材料として利用する。実験室における材料試験ならびにシミュレーションと並行して、ヒートアイランド現象による都市の温暖化が問題となっている、大阪のオフィス空間に新たなクールスポットを創出するため、ローテクで気候に対応する自己開閉型「アンブレラ」(日傘)の提案と、社会実装を目指す。
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