研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
18H05491
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
豊田 正嗣 埼玉大学, 研究機構, 准教授 (90714402)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 植物 / バイオセンサー / 機械刺激 |
研究実績の概要 |
植物は外力(力学的刺激)を受容して、自立的かつダイナミックに生体構造を変化させる(力学的最適化戦略)。この力学的最適化戦略は、持続可能な(サステナブル)社会・資源・建築を実現するために重要な能力であるが、その根幹を成す植物の力学的刺激受容機構は明らかになっていない。本研究では、外力によって発生する張力およびカルシウムシグナルを可視化するイメージング技術を開発し、植物の力学的刺激受容・フィードバック機構を解明する。さらに、これらの新しい技術を用いて、生きた植物の構造力学的パラメーターを取得し、力学的最適化を可能にする植物の原理を抽出することで、次世代のサステナブル建築構造モデルを構築する。 今年度は、生体内に発生する張力に応答して蛍光強度が変化する張力センサーの開発、細胞から個体レベルの多波長・蛍光イメージングを可能にする新しい蛍光顕微鏡の構築、力学的刺激の1つである接触や傷害に対する植物のカルシウム応答の研究に取り組んだ。さらなる微調整が必要ではあるが、多波長・広視野蛍光顕微鏡は完成し、植物個体全体のカルシウムイメージングが可能となった。また、傷害によって発生する長距離・高速カルシウムシグナルの可視化に成功し、論文として発表することができた。この研究の内容は、世界中の新聞やメディアなどで取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに動物の研究分野おいて、カルシウムや張力に応答して蛍光強度が変化する1波長(GFP)型・2波長(FRET)型バイオセンサーが開発されてきた(Nakai et al., 2001; Gayrard and Borghi, 2016)。これらのセンサーを改変・応用することで、植物細胞における張力変化を可視化する新規バイオセンサーを開発する。微小管や細胞壁に張力が発生し、これらのセンサータンパク質が構造変化またはタンパク質間の距離が変化すれば、蛍光強度も変化すると予想される。今年度は、蛍光センサー部分の改良に取り組み、in vitroで蛍光シグナルが観察できた。 細胞から個体レベルの張力分布/カルシウムシグナルを同時イメージングするための顕微鏡システムを構築した。視野数の大きいマクロズーム蛍光顕微鏡に、特殊な架台を介して2台の高感度カメラを装着した。波長の分光(クロストーク)に関して少し改善が求められるが、多波長・広視野蛍光顕微鏡を用いて、個体レベルのGFP/RFPシグナルを2波長・同時イメージングすることが可能となった。 植物が接触や傷害といった外力を受けた時に、どのような仕組みを用いてこれらの刺激を感受し、シグナルを発生させるのかをリアルタイムカルシウムイメージング技術を用いて研究した。その結果、植物はグルタミン酸受容体を用いて傷つけられたことを感受し、全身にカルシウムシグナルを伝搬させることを解き明かした。この研究内容をScience誌に発表し、The New York Times、National Geographic、Forbes、読売新聞、日本経済新聞などの多くのメディアに取り上げられた。
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今後の研究の推進方策 |
張力センサーに関しては、蛍光部分のさらなる最適化を行いながら、細胞壁や細胞骨格といったターゲットとなるタンパク質のセレクションへと移行していく。多波長・広視野蛍光顕微鏡は、最終的な調整を施し、本研究の推進のみならず新学術領域内での共同利用へとつなげたいと考えている。カルシウムイメージングの研究は、技術的にも確立され、領域内のみならず世界中の研究者との共同研究へと発展している。接触や傷害のみならず、様々な生物学・非生物学的刺激の研究へと展開していく。
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