研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
18H05492
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
桧垣 匠 熊本大学, 国際先端科学技術研究機構, 准教授 (90578486)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ジョイント構造 / 継手 / 画像解析 / 葉表皮細胞 / バイオイメージング |
研究実績の概要 |
植物の葉の表面を構成する表皮細胞は葉の発生初期には単純な形状を呈しているが、成長が進むにつれて細胞壁が湾曲して細胞同士が噛み合うようなジグソーパズル状の複雑な形に変化を遂げる。これまでの研究によって表皮細胞形態変化を制御する分子実体や理論モデルの研究は進んできたものの、その湾曲構造が持つ意義については不明瞭な点も多い。本研究領域「植物構造オプト」において、本計画研究では葉表皮細胞における湾曲構造形成を細胞・組織レベルにおける植物構造のモデル系と捉え、その力学的最適化戦略を明らかにする。具体的には、細胞壁や細胞骨格といった植物細胞の力学的性質と密接に関係する因子に摂動を加え、その状況下における細胞形態の意義を多角的に検証する。また、得られた知見に基づいて、葉表皮細胞同士の噛合いを模した新しい継手(ジョイント)構造の創造など、建築学分野への応用を目指し、サステナブル構造システムの基盤創成の一翼を担う。初年度にあたる本年度は、複数の計画研究班との共同研究推進のための密な研究打ち合わせを実施するとともに、本研究推進に欠かす頃のできないイメージング機器の導入を進めた。特に、シロイヌナズナの子葉表面を構成するほぼすべての表皮細胞の形態を経時観察する非破壊的なイメージング系の開発においては顕著な進展が認められた。加えて、本領域の統一課題である「重力応答」に関する定量的画像解析システムの確立に向けて、シロイヌナズナ花茎の立体構造を取得解析する手法の検討をハードウェア・ソフトウェアの両面から進めた。さらに本研究で取得した顕微鏡画像に基づいて、葉表皮細胞同士の噛合いを模した継手(ジョイント)構造の創造に向けた試験にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、計画班との共同研究・連携研究は順調に進行している。また、本研究の遂行に欠かすことのできないイメージング機器の充実化も図った。また、シロイヌナズナ子葉表皮細胞の非破壊的イメージング解析においては顕著な進捗が得られた。このように研究遂行においては極めて順調に進んでいるが、その一方で、当初計画していた博士研究員の雇用については難航しており、今後の課題と捉えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)外部刺激に応答した葉の力学的最適化過程の画像計測数理解析 子葉の器官形態と細胞形態を定量評価する画像解析技術の開発:子葉表皮の細胞輪郭画像から、子葉および細胞の形態を高効率・高精度に定量評価する画像解析系を開発する。1)細胞領域の分割(セグメンテーション)のためには、複数の画像処理要素技術の組み合わせや機械学習に基づく手法を検討する。2)形態を多面的に定量評価するため、面積・複雑度・稠密度・伸長度・伸長方向に加え、基部-先端軸や左右対称性など生物学的な仮定に基づく特徴など、複数の特徴量を計測する。上記の解析系を用いて、細胞骨格関連変異体における器官・細胞レベルの形態学的変化を可視化解析する。取得画像は上記の画像解析技術開発にも活用し、観察によって発見的に見出された表現型を迅速に定量的・統計的に評価する。また、上記摂動が細胞壁の力学的特性に及ぼす影響をAFMなどの領域内共通機器を活用して評価するとともに、本領域が扱う植物サンプルの計測に最適化した計測システムを立ち上げる。
(2)重力応答時の植物構造変化を定量評価する画像解析技術の開発 植物地上部画像からの樹形構造特徴の定量評価:本申請領域において撮像予定の重力応答変異体の樹形変化を捉えた画像を解析する。主茎と側枝の角度、側枝の細胞伸長速度分布などの樹形構造に係る時間空間的変化を捉えるべく、画像解析フレームワークを新たに構築する。既に細胞生物学分野で確立された細胞骨格や樹状神経細胞の構造解析技術を導入するだけでなく、本領域内の協力を得て建築学分野における解析法の導入も検討する。
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