計画研究
自然界において木は、多様な酵素を用いて木質バイオマスを生合成している。しかしながら、生合成酵素は単量体の重合を触媒しているに過ぎず、生産された高分子化合物が自己組織化し、物理的に強靱な素材が形作られることが、植物構造ユニットの構築に重要な要素である。一方、自然界では様々な微生物が植物細胞壁を分解しているが、それらの分解酵素は植物構造ユニットの細かな違いを認識し、選択的に分解することで、植物細胞壁の力学的強度を落とすようにデザインされている。本研究計画ではこの生合成と生分解プロセスを通じ、植物細胞壁構成成分同士または構成成分と分解酵素の分子間相互作用(インタラクション)に関する情報を多角的に集め、植物構造ユニットの力学的最適化戦略にせまることを目的としている。平成30年度は、まず基礎的な知見として、植物細胞壁の主成分であるセルロースがどのように結晶(セルロースナノクリスタル:CNC)化し、それがセルロースナノファイバー(CNF)化するのかを明らかにするとともに、植物細胞壁の生合成および生分解に関わる酵素の生産に力点を置いた。また、セルロース分解性細菌由来のセロデキストリン加リン酸分解酵素(CDP)の逆反応を用いて極めて結晶化度の高いCNCを生産する実験系も有しており、それらの合成反応を高速原子間力顕微鏡などによって分子レベルで観察することで、セルロースが水系の反応場でいかに自己組織化するかを詳細に調べた。また、植物細胞壁分解酵素の中で逆反応が可能なCDPを用いることによって、in vitroにおけるCNCの生産を試みるとともに、その詳細な構造と力学的性質を調べる。さらに自己組織化の様子を、高速原子間力顕微鏡を用いて動的な挙動を観察し、得られた画像の解析行った。
2: おおむね順調に進展している
セルロース合成酵素の異宿主発現は、当初に予想した通り進展が遅いが、その代替であるセロデキストリン加リン酸分解酵素の実験系がうまく動いていることから、実験自体に遅延はない。高速原子間力顕微鏡による観察も終えて実験も順調である。さらにエクスパンシンの特徴付けを行ったところ、非常に興味深い性質が見つかってきている。次年度にそれらに関して詳細を報告できると考えている。
セロデキストリン加リン酸分解酵素による結晶性セルロースの合成系は、宇宙での実験を行うために準備を行っている。JAXAからの不採択通知をもとに、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)との共同研究をスタートさせている。エクスパンシンの特徴付けに関しても引き続き行って行く予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 9件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
放射光
巻: 32 ページ: 59-66
J. Sci. Food Agric.
巻: 99 ページ: 529-535
10.1002/jsfa.9211.
Glycobiology
巻: 28 ページ: 3-8
10.1093/glycob/cwx089
J. Wood Sci.
巻: 64 ページ: 845-853
10.1007/s10086-018-1770-4
J. Biol. Chem.
巻: 293 ページ: 8812-8828
10.1074/jbc.RA117.001536
Polymer Degrad. Stabil.
巻: 148 ページ: 19-25
10.1016/j.polymdegradstab.2017.12.008
Biochem. J.
巻: 475 ページ: 305-317
10.1042/BCJ20170106.
Energy Technology
巻: 6 ページ: 273-279
10.1002/ente.201700404
バイオプラジャーナル
巻: 70 ページ: 10-14
横河技報
巻: 61 ページ: 33-34
四季
巻: 41 ページ: 1
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2018/20180510-1.html