計画研究
生合成(biosynthesis)レベルの実験としては、昨年までに得られた宇宙空間で合成した酵素合成セルロースゲルの構造をより詳細に解析する為、小角・広角X線散乱法によるゲル構造の分析を試みた。また分析に先立ち、コンフォーカルサイエンス社と共同し、新たに石英ガラスを用いた反応容器の設計を行った。現在までに、新しい反応容器を用いた宇宙空間での新たなセルロースゲル調製までを完了しており、電子線散乱実験を進めている。また昨年までに作成したセルロースナノクリスタル合成酵素CDPのシステイン→セリン残基変異による安定変異体の安定化メカニズムを解明する為、調製した安定変異体の結晶構造を解明し解像度2.0Åでの立体構造情報の取得に成功した。さらに解析の結果、調製したCDP安定変異体は野生型酵素では二量体→単量体へと重合体構造が変化していることを明らかにした。現在はさらにセルロースを合成中のCDP酵素の形態を明らかにする事を目的にクライオ電子顕微鏡での解析にも取り組んでおり、これまでに野生型酵素のみの状態で解像度3.0Åの構造取得に成功している。また生分解(biodegradation)に関する研究としては、セルロース分解性細菌由来セルラーゼの高速原子間力顕微鏡による動的可視化の結果から、プロセッシビティの獲得が蛋白質レベルの収斂進化によるものであることを提唱し、その成果を米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America IF=9.412)に報告した。さらに生改変(biomodification)実験としては、トマトが生産するβ-ガラクトシダーゼおよび担子菌が生産するβ-ガラクタナーゼのX線結晶構造から、β-ガラクタンをエキソ型で分解する酵素の分子機構を明らかにした。モモ由来エクスパンシンの機能に関しても反応性をさらに深く調べたところ、キシランの分解活性を持つことが明らかとなってきた。
1: 当初の計画以上に進展している
細菌由来のセルロース分解酵素の研究は、セルラーゼの進化の話につながり米国科学アカデミー紀要(PNAS)に公開された。さらに、微小重力下でのセルロース合成実験に成功し、放射光施設においてデータ取得まで完了したことから、コロナ禍において当初の計画以上に進展したと言える。
生合成(biosynthesis)レベルの実験としては、セロデキストリン加リン酸分解酵素(CDP)の逆反応によるセルロースナノクリスタル(CNC)の生成に対する重力の影響に注目してきた。本年度は、昨年度得られた宇宙空間で合成した酵素合成セルロースゲルの構造をより詳細に解析するため、さらに小角・広角X線散乱法によるゲル構造の分析を試みる。現在までに、新しい反応容器を用いた宇宙空間での新たなセルロースゲル調製までを完了しており、電子線散乱実験を進めている。また昨年までに作成したCDPのシステイン→セリン残基変異による安定変異体の結晶構造に関して成果報告をしていく予定である。現在、さらにセルロースを合成中のCDPのクライオ電子顕微鏡による構造解析にも取り組んでおり、これまでの実験で得られている解像度3.0Åの野生型酵素の構造に関しても報告していく。また生分解(biodegradation)に関する研究としては、溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)によるセルラーゼの活性促進メカニズムを詳細に調べ、その結果を報告する。1950年にReeseによって提唱されたC1-Cx説および1970年代にErikssonが提唱した酸化促進のanswer paperとなる解析結果が出ている。モモ由来エクスパンシンの機能に関しても解析を継続していく予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
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