計画研究
本研究では、優れた力学特性が植物体に付与される仕組みを明らかにするために、植物細胞壁の非セルロース性成分による細胞形態制御や細胞間接着、細胞壁構築の分子機構を解明することを目的としている。アラビノガラクタン-プロテイン(AGP)は植物特有の細胞外糖タンパク質であり、細胞壁最内層(原形質膜表面)に存在する。2018年度は、微生物から単離された強力なAG糖鎖分解酵素遺伝子を利用したAGP機能攪乱植物の作出を行った。デキサメタゾン処理によりAG糖鎖の主鎖の破壊が起きる植物はすでに作出しており、加えて、AG糖鎖の側鎖や末端グルクロン酸残基が分解される植物を作出した。AG糖鎖構造と組織・細胞形態、植物体の物性の関係を整理し、次年度以降に機能に重要な糖鎖構造を解析する予定である。AG糖鎖の働きに関与する新規因子の発見を目指して、上記のAG糖鎖主鎖破壊植物から変異体プールを作成したが、導入遺伝子の発現量が安定せず、良好なプールが得られなかった。そこで別のプールを作成し、AG糖鎖特異的な阻害剤であるヤリブ試薬を利用した変異体選抜を開始した。ペクチンには、HGとRG-I 、RG-IIの3領域が存在するが、組織形態の決定や細胞形態の制御におけるこれら3領域の分子機能の違いがわかっていない。そこで2018年度は、HGとRG-IIの合成が異常なシロイヌナズナ変異体を取り寄せ、ホモライン化を行い、基本的な植物体の形質として胚軸と根の成長を調べた。HGの変異体のうち、主要なHG合成酵素を欠損した変異体は生育が極めて悪いことがわかった。RG-Iの主鎖合成に関わるRRTは4つあり、多重変異体作出の準備段階として、掛け合わせとゲノム編集を行った。
2: おおむね順調に進展している
2018年度は、研究項目「優れた力学特性を生む細胞伸展性・形態形成の自律的制御機構の解明」で予定していた、AG糖鎖機能攪乱シロイヌナズナからの変異体プールの作成と変異体選抜を、ヤリブ試薬を利用した選抜にするなどの変更を行ったが、AG糖鎖の機能に関わる変異体を単離・同定する目標には順調に向かっている。研究項目「力学的最適解を生む細胞接着の形成・キャンセル制御機構の解明」については、一部のペクチン変異体の取得が遅れているものの、大半のペクチン変異体を取得できており、次年度以降は当初の計画通りに進めることができると考えている。研究項目「重力に抗する植物の動的な体作りの仕組みの解明」は、当初の計画通りの実験ができていないが、実験試料の調製は進んでおり、次年度以降に実施予定である。
AGPは細胞壁の微量成分であるにも関わらず、成長や分化など植物の様々な生理現象に関与する。阻害剤であるヤリブ試薬を用いた研究からは、組織形態や細胞形態の制御に関わることが示唆されている。微生物の分解酵素の発現により複雑なAG糖鎖が段階的に失われるシロイヌナズナを用いて、組織形態の制御や茎の物性に重要な糖鎖構造を特定する。AGPによる組織形態や細胞形態の制御を解明するために、AG糖鎖に特異的に結合するヤリブ試薬に高感受性または耐性のシロイヌナズナ変異体を選抜し、原因遺伝子から、AGPの分子機能に関わる因子を発見、同定する。ペクチンには、HG、RG-I、RG-IIの3領域があるが、細胞接着における個々の領域の役割の違いが分かっていない。また最近、HGの脱メチルエステル化が等方成長から異方成長への転換に関わることが提案されている。本研究では、これまで得られていなかった RG-Iの合成異常変異体を作出し、各種のペクチン変異体で、植物体の物性と細胞の形態、カルシウム・ホウ素の架橋度を調べ、これらの関係を整理する。また、これらをパラメーターとして利用して、力学的に優れた構造が形成されるメカニズムをモデリングを利用して考察する。太古の昔に水中から陸上に進出した植物には、1 gの重力に抗するための細胞構造や組織形態があると考えられる。加えて、これらの構造の形成、維持に必要な優れた部材としての細胞壁分子が存在すると期待される。そこで、細胞壁や細胞骨格に異常を持つ様々なシロイヌナズナ変異体を遠心過重力環境で育成し、重力に抗する力学構造に重要な細胞・組織構造や優れた部材としての細胞壁分子を探索、同定する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 4件)
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