研究領域 | ケモテクノロジーが拓くユビキチンニューフロンティア |
研究課題/領域番号 |
18H05502
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
内藤 幹彦 国立医薬品食品衛生研究所, 遺伝子医薬部, 部長 (00198011)
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研究分担者 |
伊藤 拓水 東京医科大学, 医学部, 准教授 (30533179)
石川 稔 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70526839)
出水 庸介 国立医薬品食品衛生研究所, 有機化学部, 部長 (90389180)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ユビキチン / タンパク質分解 / 脱ユビキチン化酵素 / ステープルペプチド / サリドマイド / セレブロン |
研究実績の概要 |
E3リガンドとしてβnaphthoflavoneを導入し、ユビキチンリガーゼAhRを利用して標的タンパク質を分解するキメラ化合物を新たに開発した。ペプチド型SNIPER(PROTAC)開発では、核内受容体に高い親和性を有するペプチド(PERM3)に各ユビキチンリガーゼ(XIAP、VHL、CRBN)のリガンド(LCL161、AHPC、pomalidomide)をコンジュゲートしたペプチド型キメラ化合物を合成し、いずれもER、ARに対して分解活性を有することを明らかにした。核酸型SNIPER(PROTAC)の開発においては、ERに高い結合力を有するオリゴ核酸のスクリーニング、細胞評価系の構築を行い、ER転写活性化を阻害できる配列を見出した。 神経変性疾患の疾患関連タンパク質を分解誘導するSNIPER化合物を、中枢薬らしい化学構造にすべく構造展開し、分子量の低減と水素結合受容体・供与体数の低減に成功した。ユビキチンリガーゼcIAP1のリガンド結合部位とリガンドのX線複合体結晶解析に成功した。 がん特異的融合タンパク質BCR-ABLは細胞内で分解されやすいが、慢性骨髄性白血病細胞の中ではUSP25によって脱ユビキチン化を受け分解を免れている事を明らかにした。 サリドマイドにより分解が誘導されるCRBNの新規ネオ基質p63がサリドマイド催奇形性にかかわることを証明した。p63にはΔNp63とTAp63という二つのバリアントがあるがいずれもサリドマイドで分解され、ΔNp63の減少が四肢(胸びれ)異常を、TAp63の分解が耳の異常を引き起こした。また、血管新生にかかわる新たなCRBNネオ基質等を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キメラ化合物による標的タンパク質の分解に利用できるユビキチンリガーゼはIAP、CRBN、VHL等数種類に限られており、その種類を増やすことはプロテインノックダウン技術の拡充に重要である。今年度は新たにAhRユビキチンリガーゼを利用して分解するキメラ化合物の開発に成功した。リガンドとして小分子だけでなくペプチド等を利用できると基礎研究に応用しやすい技術になるが、SNIPER(PROTAC)法で汎用されるユビキチンリガーゼ(XIAP、VHL、CRBN)をリクルートするキメラ化合物はペプチドリガンドを導入しても機能し得ることを明らかにした。また創薬への展開に向けては、化学構造の改変により分子量の低減と水素結合受容体・供与体数の低減に成功する等、技術改良が進んでいる。 がん細胞の中でがん特異的融合タンパク質が安定に存在する機序として脱ユビキチン化酵素の関与を明らかにし、脱ユビキチン化酵素阻害が新しいプロテインノックダウン技術になる可能性を示した。 さらにサリドマイド催奇形性の分子機構を明らかにしてその成果を論文として報告し、また新たに血管新生にかかわるCRBNネオ基質を明らかにすることが出来た。 以上のようにケミカルプロテインノックダウンに関する研究成果が続々と出ており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
SNIPERによる細胞質タンパク質のユビキチン化はプロテアソームによる分解を誘導するが、細胞膜受容体タンパク質のユビキチン化は受容体タンパク質の内在化とリソソームによる分解を引き起こし、ミトコンドリアタンパク質のユビキチン化はマイトファジーを誘導する。SNIPERによってこれらのタンパク質に形成されるユビキチン鎖の構造とこれを認識するデコーダー分子等を領域内共同研究で解析し、ユビキチンコードの作動機構の一端を明らかにする。 今年度に引き続き新規E3リガーゼをリクルートするリガンドの探索を行い、キメラ化合物を合成してプロテインノックダウン技術に利用できるE3リガーゼの拡充を試みる。また中分子ペプチド、オリゴ核酸を標的タンパク質(転写制御因子:核内受容体、β-カテニン等)のリガンドとして利用したケミカルプロテインノックダウン技術、ペプチド型、核酸型SNIPER(PROTAC)の開発を行う。さらに、プロテアソーム直接リクルート型タンパク質分解誘導剤の開発を行う。プロテインノックダウン技術の神経変性疾患に対する医薬品開発への応用を目指し、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質(変異ハンチンチン、αシヌクレイン、変異スーパーオキシドディスムターゼ)を減少させる化合物を創製する。 サリドマイドの催奇性を排除したより安全な薬剤の開発および、従来より強力な基質分解活性を誘導するための官能基を検証する。サリドマイドの基質認識モイエティは主にフタルイミド骨格が担っているが、その部分に諸修飾を導入した際の分解機構の変化について生化学的に検証する。
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