計画研究
タンパク質ユビキチン化は、当初の想定を大きく超える多様なタンパク質機能制御機構であることがわかってきた。この多様な機能を生み出す基盤は、ユビキチン修飾の構造多様性と相互作用する分子(デコーダー)の多様性にある。本新学術領域研究では、化学的アプローチ(ケモテクノロジー)を駆使して、ユビキチン修飾系を理解し、操作する新たな方法論を開拓しようとしている。その中心となる技術は、UbTACsと名付けた新たなユビキチン化誘導キメラ分子である。これまでK48鎖ユビキチン化を介してプロテアソームによる分解を誘導するPROTACsが広く開発されてきているが、K48鎖のみならず、様々なユビキチン鎖を誘導して、様々な機能を付与することを目指している。本研究では様々なE3リガーゼの新規リガンドを探索するため、独自技術である化合物アレイを活用する。2019年度は、膜タンパク質輸送を制御するユビキチンリガーゼであり、K63 鎖を特異的に形成する NEDD4 に結合するE3リガンドの2種の候補化合物の構造活性相関研究を行い、そのうち1種の化合物がキメラ化合物への誘導化が可能な官能基を有することを明らかにした。その化合物を用いて、モデル系のキメラ化合物として、HaloリガンドとNEDDリガンドのキメラ化合物を合成した。また、得られたE3リガンドと標的タンパク質に結合する分子弾頭を効率よく結合させる方法として、アジドとアルキンを用いたクリック法を用いてヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を分解できるキメラ化合物を合成した。また、ユビキチンに特異的に結合するデコーダー分子のユビキチン結合ドメインを標的とし、ユビキチンとの相互作用を阻害する化合物の探索を行うため、独自に開発した改良型二分子蛍光補完法を用いたスクリーニング系を構築し、探索を開始した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、新規のE3リガンド及び標的タンパク質リガンドを探索し、それらを組織的にキメラ化してUbTACsを創製する計画であり、そのためにはクリック反応等を利用した効率的なキメラ化技術が必要となる。そこで、2018年度にはそのための基盤を構築するため、E3であるセレブロンのリガンドとして知られているサリドマイドに各種長さのリンカーを介してアジド基を導入した。2019年度は、その有効性を検証するため、HDAC阻害剤とキメラ化することにより、HDAC6を分解できる新規キメラ化合物の創製に成功した。また、新たなE3リガンドの探索に関しては、NEDD4リガンドの化合物アレイによる探索、結合親和性の解析、それらの構造類縁化合物を用いて構造活性相関研究を行い、キメラ化合物への誘導化が可能なリガンドを明らかにした。また、他のE3リガーゼおよびプロテアソームタンパク質についても、領域内の計画班員からすでに受け入れて、化合物アレイによるスクリーニングを実施している。また、ユビキチン関連分子とそのデコーダーの相互作用阻害剤を開発するための最適な評価系を構築するため、Gaussiaルシフェラーゼの2分子蛍光補完法を確立した。そこで2019年度はこれを用いた各種評価系を構築し、良好なシグナルバックグランド比を示した評価系について、探索研究を開始した。このように、当初の計画通り、おおむね順調に進展している。
NEDD4リガンド候補として同定した化合物の活性、特異性、有用性を検証するとともに、必要に応じて、NEDD4全長タンパク質を用いた化合物アレイスクリーニングを実施する。さらに、NEDD4に続いて領域内の共同研究を拡大し、新たなリガンド候補化合物の化合物アレイによる探索を実施する。得られた候補化合物については、結合解析、構造活性相関研究を行い、キメラ化するためのリガンド化合物の特定を行っていく。また、昨年度までに整備したキメラ化基盤をもとに、各種キメラ化合物の合成を行い、その活性や特異性を評価する。ユビキチン関連分子とデコーダーの結合を制御する新たな化合物の探索系として、Gaussiaルシフェラーゼの2分子蛍光補完法を構築し、広範なスクリーニングを開始した。今後は、スクリーニングを完了させるとともに、一次ヒット化合物の容量依存性試験、特異性試験(カウンターアッセイ)を実施してトゥルーヒットを同定する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 3件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (45件) (うち国際学会 19件、 招待講演 5件)
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