計画研究
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の進化速度について、日本産ネズミ類およびモグラ類において、第四紀後期の過去15万年間の4回の劇的環境変動点(13万年前、5.3万年前、1.5万年前、1.1万年前)で生じた一斉放散クラスターに着目し、これらの開始時期を較正点として算出した。その結果、過去15万年間は11%/site/myrであるが、10万年前よりも古い場合には3%/site/myrであった。得られた進化速度と全mtDNA配列データに基づく解析から、日本のハツカネズミは、3000年前ころにまず中国南部より、そしてその後朝鮮半島より由来の異なる2系統が移入した可能性が示された。前者については、農耕を基盤とするヒトの集団の移入に関する重要な新規知見であると思われる。日本在来イネおよび世界について、赤米に注目しながら全ゲノムのデータ解析行った。イネ3000ゲノムの情報も加味しながら分子系統解析及び主成分分析を行ったところ、赤米系統そして陸稲系統群を含む日本在来種の世界のイネ系統の中での系統学的関係性の大枠を明らかにした。粟津湖底および新谷より採取された古代ヒョウタン標本に対し、新しく改良した方法で比較的高収量でDNAを得た。NGS解析から最大で全長の5%程度に相当する断片を得た。マッピングの結果、解読された配列は11本ある染色体のうち8番染色体に集中した。北海道ヒグマの雌雄各1個体、計6個体の全ゲノム解析データから全常染色体配列を得て、既報の海外のヒグマのゲノムデータ18個体分と合わせて解析した。北海道ヒグマは大陸の集団と遺伝的に大きく異なること、西ヨーロッパの個体数が減少した集団よりも遺伝的多様性が比較的高く維持されていることが明らかとなった。大陸のヒグマは間氷期 (13~11.4万年前) に集団サイズが一時的に増加した,北海道のヒグマでは同時期の集団サイズの増加はなかった。
2: おおむね順調に進展している
鈴木仁はハツカネズミ98匹の全ゲノム解析によるユーラシア産ハツカネズミの時空間動態に関する研究を行ない、ミトコンドリアゲノムで1編および核ゲノムで関連論文1編をすでに公開している。前者においては、発表雑誌HeredityのPodcastの一タイトルに取り上げられた。モグラ類のmtDNAの時間依存性進化速度についても1編論文を発表するとともに、総説論文を1編発表した。今後、ハツカネズミの毛色の地理的変異と毛色関連遺伝子の時空間動態を解析予定だが、先駆けて、Mc1r遺伝子のゲノム編集に関する論文を1編発表した。増田隆一は、北海道産ヒグマを対象としてゲノム解析を進め、すでに論文を投稿している。伊藤剛は農研機構が公開している日本在来イネ系統のコアコレクションについて、全ゲノム解析に基づく系統学的調査を行い、現在論文原稿の作成中である。遠藤俊徳は、栽培種ヒョウタンの起源と伝播経路解明の分子系統解析を行い投稿原稿を作成中である。
今後は以下の4つの研究を遂行する。研究1:野生ハツカネズミ98個体の全核ゲノムデータを活用し、自然選択に関わった可能性のある遺伝子に焦点をあて、その時空間動態および環境適応形質に関与した遺伝的変異の探索を行う。本年度は、毛色関連遺伝子AsipおよびMc1rに注目し研究を進める。経路変異に関わる責任変異の探索および核ゲノム配列の中で組換えのない配列を探索し、分子系譜図構築のマーカーとして活用し、空間動態の詳細を解明する。加えて、ヒトの先史時代の農耕の発展と共に展開した野生ハツカネズミの進化史を明らかにするために、オーストロネシア語族の関与が示唆されているマダガスカルに着目し、ミトコンドリア全ゲノム配列の解析および核ゲノムのSNP解析に基づく集団動態の解析を行う。合わせてインドネシア、フィリピンのハツカネズミの解析も行う。さらに、住家性小型哺乳類のクマネズミ、ドブネズミ、ジャコウネズミにも注目し、ミトコンドリアDNA遺伝子および全ゲノムレベルの解析を行い、南アジア地域におけるハツカネズミの先史時代の集団動態と比較する。研究2:農研機構ジーンバンクに登録収蔵されている古代米サンプルのゲノム配列を用いた集団遺伝学的な解析を進め、その由来を探る。また農研機構が公開した日本列島の在来品種コレクションのゲノム情報を用いて、日本列島内でのイネの集団史の推定を試みる。研究3:昨年度に引き続き、岡山県南方(済生会)および滋賀県粟津湖底の遺跡由来のヒョウタン標本(弥生時代中期頃)に関し、在来種を加えて核ゲノムのSNP解析に基づき、日本列島へのヒョウタンの移入の経緯を明らかにする。研究4:北海道のヒグマおよび日本特有の哺乳類のゲノム解析を引き続き行う。海外のデータと比較分析することにより、渡来と移動の歴史を探り、これらの結果と古環境の変遷や狩猟圧との関連を引き続き探る。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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