計画研究
本年度は以下の6つの研究を遂行した。研究1:野生ハツカネズミ98個体の全核ゲノムデータを活用し、毛色関連遺伝子Asip (180 kb)およびMc1r (250 kb)に対する系譜学的解析を行った。先史時代、適応的な毛色変異が新規に移入した地域においてそれぞれ定着したことが示された。研究2: マダガスカルのハツカネズミ集団の全核ゲノム解析はアジア南部に展開する亜種M. m. castaneusの寄与、さらには先史時代の航海術を有したオーストロネシア語を繰る農耕民の関与を示唆した。研究3:クマネズミのmtDNA遺伝子変異の解析は、約5千年前に海洋域を含んだ南中国と東南アジアで急激な多様化が生じたことを示唆した。研究4:核ゲノムSNPを用いた集団解析および、15の代表的な栽培化遺伝子の系統解析から、ヤポネシアの栽培イネの集団構造を明らかにした。古い品種であると示唆された古代米(赤米)1系統のゲノム構成は、古いジャポニカ型アリルおよびインディカ由来のアリルからなることが明らかとなった。また、葉緑体ゲノムを用いた解析から、日本のジャポニカ品種は2500年前以降に有効集団サイズの増大が始まったことが示唆された。研究5:岡山県南方(済生会)および滋賀県粟津湖底の遺跡由来のヒョウタン標本(弥生時代中期頃)に関し、在来種を加えて核ゲノムのSNP解析に基づき、日本列島へのヒョウタンの移入経緯を推察した。研究6:解析した北海道のヒグマの全ゲノム情報と既報の海外ヒグマの全ゲノム情報を比較解析することにより,北海道ヒグマでは遺伝的多様性は低いが絶滅が危惧されているヨーロッパの個体群よりは多様性が高いこと、北米やヨーロッパのヒグマ集団とは明瞭に異なること、最終間氷期以前より大陸集団と異なる集団動態を経験していること、北海道ヒグマのミトコンドリアDNAの3系統集団間で交流があることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
鈴木はハツカネズミ98匹の全ゲノムデータを活用し、毛色変異に関わる地理的変異の創出に関わる初期農耕民の空間的動態と新規環境への適応に関する論文発表を行った。博物館剥製試料を用いた遺伝子解析によりネパール産ハツカネズミの遺伝的特性に関する論文発表を行った。時間依存性を示すmtDNAの進化速度の動態把握は集団の時空間動態の把握に必須である。24のmtDNA一斉放散クラスターに着目し、非同義置換の派生と除去に関する時空間動態を明らかにした論文を発表した。東南アジアの大陸部および島嶼部における初期農耕に関わる農耕民のオーストロネシア語を語る人々の関与をマダガスカルから琉球列島に及んでいることをハツカネズミおよびクマネズミの核ゲノムおよmtDNAの解析から明らかにし、その一部については論文発表を行った。また一般向け雑誌ビオストーリーにおいて「人とともに分布を拡大する”ネズミ”」という特集においてハツカネズミとクマネズミの琉球列島を含むアジア東南域の島嶼部における拡散に先史時代の海洋農耕民の関与があることを報告した。遠藤はヤポネシア周辺地域へのヒョウタンの伝播を解明するため、国内外のヒョウタン標本の解析を進めてきた。また、60標本の全ゲノムデータの解読と、古代ヒョウタンのゲノム解読を進めてきた。これらの結果について論文を執筆中である。増田は北海道産ヒグマを対象として全ゲノム解析を進め、海外のヒグマと比較した成果を論文発表した。また、バルカン半島に特異的な家畜である東バルカンブタの遺伝情報によりアジアとヨーロッパの文化交流が示唆されたデータを投稿発表した。坂井、熊谷は農研機構コアコレクションおよびイネ3000ゲノムプロジェクトのデータを用いて、集団遺伝学解析、葉緑体ゲノム多型DBの拡充を進め、これら結果の論文原稿を作製している。またイネ参照ゲノムIRGSP2.0の構築を進めている。
次年度は以下の7つの研究を集中的に行い完結するとともに、最終年度であり、論文発表に向けて注力する。1)ジャコウネズミの拡散に関するゲノム学的解析を行い、特に琉球列島と大陸部の先史時代の集団動態を解明する。同時にハツカネズミおよびクマネズミの動態との比較を行い、5000年前頃のオーストロネシア語話者の関与を考察する。2)日本列島産ドブネズミの集団動態に関してゲノム学的解析を行う。すでに開示されている中国産ドブネズミ集団のゲノム情報を活用する。3)精密な分岐年代の推定を行うために、全ミトコンドリアゲノム配列を解析し、時間依存性進化速度の要因を解明し、標準的進化速度の提案を行う。特にアミノ酸コード領域における弱有害な同義置換の動態に着目する。4)ヒトに帯同して先史時代に分布拡大を行ったネズミ類(ナンヨウネズミ、クマネズミ、ドブネズミ)の毛色変異に注目し、毛色関連遺伝子AsipおよびMc1rの責任変異を特定し、自然選択の影響を考察する。5)農研機構ジーンバンクに登録収蔵されている古代米サンプルのゲノム配列を用いた集団遺伝学的な解析を進め、その由来を探る。また 農研機構が公開した日本列島の在来品種コレクションのゲノム情報を用いて、日本列島内でのイネの集団史の推定を試みる。6)現代のヒョウタン、および古代ヒョウタン(滋賀県粟津湖底遺跡、岡山県南方遺跡、愛媛県新谷遺跡)のNGS解読データに基づき、系統関係を解明し、ヤポネシアへの移入経路と進化の推定を明らかにする。解析結果はデータベース化して公開する。7)北半球に広く分布するヒグマおよび日本特有の哺乳類のゲノム解析を引き続き行う。ヒグマについては、ゲノム情報に基づき、北海道内の三重構造の有無の検証を行う。海外の動物集団と比較分析することにより、渡来と移動の歴史を探り、これらの結果と古環境の変遷や狩猟圧との関連を引き続き探る。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (18件) (うち国際共著 7件、 査読あり 16件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 4件) 図書 (1件)
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