研究領域 | ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明 |
研究課題/領域番号 |
18H05510
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
遠藤 光暁 青山学院大学, 経済学部, 教授 (30176804)
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研究分担者 |
木部 暢子 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変異研究領域, 教授 (30192016)
中川 裕 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (50172276)
狩俣 繁久 琉球大学, 島嶼地域科学研究所, 教授 (50224712)
風間 伸次郎 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50243374)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 地理言語学 / 三国史記 / 日琉祖語 / 音韻対応 / アルタイ型諸言語 / アイヌ語 / 日本語諸方言の言語システムの比較 / 集団遺伝学 |
研究実績の概要 |
遠藤は地理言語学的アプローチにより、日本を含む中国および周辺地域の言語地図を各種描画し、その形成過程を考察した。また『三国史記』地理志に見られる古地名・『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』の万葉仮名データベースの構築を行った。更に姓と地名の地理分布の研究に着手した。 狩俣は日琉祖語の*pと*kを語頭に持つ単語を集団遺伝学の手法で分析し、その結果を言語地図化して検証した。分岐後の時間が短い琉球諸語では音韻を指標にした分析の有効性を確認し、2020年10月刊行の論文集に投稿した。2019年11月16日・17日「琉球列島への人と文化の移動」をテーマとする研究会を開催しゲノム人類学、考古学等の研究者と意見交換した。 木部は日本語諸方言の言語システムを比較するため、青森県八戸市と宮崎県椎葉村で基礎語彙等の調査を実施し、データを蓄積した。また、音韻対応やアクセント対応の面から日本語の古態を探る研究を行い、成果を総合誌『歴博』218の特集「日本列島人の起源とは」に発表したほか、推量表現の地域差に関する研究成果を発表した。 中川は千葉大院生による研究チームを編成し、帯広市図書館に所蔵されている沼田武男氏のアイヌ語十勝方言筆録資料の分析を行った。同方言はアイヌ語史の鍵となる方言だが、これまでごく少数の話者に資料が限られてきた。同資料は昭和20年代の話者による膨大なテキストであり、アイヌ語研究に飛躍的な進展をもたらす可能性を持っている。 風間は日本語や日本語に似た類型を示す「アルタイ型」の諸言語の語順の違いとこれに伴う情報構造の類型論的な違いについて論じた。また類型論的な観点からアイヌ語と他言語の異同を考察した。更にWorld atlas of language structuresのデータにより日本語を含むアルタイ型言語の語順特性およびそれと内的関連性を持つ諸特徴について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遠藤は中国語音韻史の立場から上代以前の日本語と三国時代の朝鮮半島のJaponic, Koreanic等の諸言語を表す漢字音資料の分析を網羅的に進めるための基礎となるデータベースを構築し、日本語のたどって来た経路と時代の具体的かつ実証的な分析を進めつつある。 狩俣は分析対象の語数と地点を増やすための方言データの整備を行った。音韻を指標にした研究と並行して、稲作に深く関わる稲、米、鎌などの基礎語彙と動詞形態論の根幹をなすアスペクト・テンス体系とを検討した。北琉球語と南琉球語の南北差が九州からの大きな人の移動が2回あったことによる可能性を指摘し日本方言研究会誌に投稿した。 木部は昨年度と今年度、青森県むつ市、青森県八戸市、宮崎県椎葉村で言語調査を実施し、東北と九州のデータを収集した。並行して、国立国語研究所の全国方言データの分析を行い、昨年度は格表現、今年度は推量表現の地域差を明らかにし、言語の類型化を行なった。今年度から全国方言のデータの解析において、国立遺伝学研究所との連携を開始した。 中川は沼田資料中の「採訪帳」と題される18冊のノートの分析を行い、その目録を作成するとともに、アイヌ語による口承文芸のテキスト12編を翻刻。定期的研究会において検証を行った。この作業によって、現在記録されている話者の一世代前の言語資料を得ることができ、十勝方言の特性および、十勝方言内の地域差について確認することができた。 風間は、本来は新たな歴史的資料の発見でもない限り日本語の系統について何らかの事実を明らかにすることは大変難しい中、日本語がどのようなタイプの言語であるか、どのような言語との類似点を持っているか、もしくはその中で逆に相違点や特色を示すのはどのような点であるかを解明していくことは可能と考え、これまでこの線に沿ってデータを収集し、分析・研究を行ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
遠藤はまず上代以前の日本語の漢字資料の分析を続行する。更にLinguistic Atlas of Asiaの最終編纂と刊行を行い,「アジア・アフリカ地理言語学」三カ年プロジェクトの初年度を開始し,日本語をアジア・アフリカ諸語の中に位置づけ,日本語の辿ってきた経路を具体的に推定する。また姓・地名とDNAハプログループの地理分布の比較対照を行う。 狩俣は*p、*k以外の子音音素別、母音音素別の分析を行い、音素ごとの系統特性を検討する。また、語彙を意味分野別に分け集団遺伝学的分析も試みる。意味分野別に変異の幅の大小を析出し、系統特性を検討する。合わせて分析結果を言語地図化し、地理的分布と系統樹を総合的に検討し琉球諸語内の系統関係を探る。 木部は今後も九州諸方言、東北諸方言の調査を実施してデータを収集し、これらのデータや国立国語研究所が所有する言語資源を活用して、各地の言語システムの分析と比較を行う。また、遺伝研と連携して日本語諸方言のデータの解析を進める。これらにより、日本語の古態の再建をめざす。 中川は現在行っている作業をさらに進め、アイヌ語十勝方言の他方言との同異性を分析、十勝方言内での地域差を明らかにするとともに、他方言との比較によってアイヌ語の歴史を跡付ける。特に十勝方言を境界とする接続助詞の用法と、十勝方言特有の文末句の用法およびその地域的広がりについて検討していく。 風間はここ数年現地調査を行っているチュルク諸語のチュヴァシュ語のデータの分析・整理・刊行を目指す。この言語はチュルク諸語の中では独自で古い特徴を多く保持しており、チュルク諸語と、モンゴル・ツングース諸語の関係を解明するミッシング・リンクを埋めると期待されている言語である。この言語の研究を通じて、さらにアルタイ諸言語や「アルタイ型」言語の類型的特性についても多くの知見が得られることが期待できる。
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