研究領域 | ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 |
研究課題/領域番号 |
18H05514
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
一杉 太郎 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (90372416)
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研究分担者 |
宇佐美 徳隆 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20262107)
秋山 英二 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (70231834)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 水素 / 界面 / 可視化 / エピタキシャル薄膜 / 水素化物 / 太陽電池 / 水素脆化 |
研究実績の概要 |
水素の高精度局在化技術を確立し、ヘテロ界面での局在水素による新たな電子物性・機能の発現に成功した。 【水素化物エピタキシャル薄膜成長】これまで、YOxHy、Ca2NHなどの薄膜合成に成功した。また、クロソ系錯体水素化物であるLi2B12H12の薄膜合成に挑戦した。しかし、Li2B12H12は真空中での昇華温度よりも熱分解温度が低いため、薄膜合成に成功していない。そのため、クロソ系錯体水素化物の薄膜合成に向けて、熱安定性の高い材料の成膜実験を行い、成膜指針を得ることが必要である。YOxHyエピタキシャル薄膜について、A05と共同で、光照射による金属化メカニズムの研究を進めた。その結果、光照射前後でのY骨格や組成変化がないことを確認した。そのため、ミクロスコピックな水素の局所状態変化が示唆され、水素の局所配位変化に由来した構造モデルを作製し、キャリア生成機構を検討している。 【水素濃度分布の可視化】A01と連携し、SPring-8の高輝度X線を用いたエネルギー分散X線回折により、高強度鋼のU曲げおよび張出し試験片の応力分布を求めた。それにより、水素脆化によるき裂発生が高応力部に生じることを確かめた。加えて、超高圧下での鉄及び鉄基合金の水素に起因する変態挙動を明らかにした。また、A04と連携し開発したIr錯体を用いた水素可視化技術を適用し、張出し試験片の塑性ひずみ分布と水素拡散挙動の関係を、水素透過量のマッピングから明らかにした。さらに、新たなポリアニリンを用いた水素可視化法を開発した。 【界面制御による太陽電池性能の向上】酸化チタン/結晶シリコンへの原子状水素注入よる表面パッシベーション性能の向上メカニズムの解明をA05との共同研究により進めた。高性能試料では、界面に水素が局在していることや、水素が関与する結合の結合エネルギーが増加し、より安定な結合が形成されていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、水素化物エピタキシャル成長を含む水素の高精度局在化技術を確立し、ヘテロ界面での局在水素による新たな電子物性・機能の発現に成功した。 さらに、有機物を用いた水素検出などに成功し、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、学問分野の枠を超えた水素機能の融合に注力する。そして、イオン伝導体を用いた固体内へのヒドリド、プロトンを含む多様な水素種導入による物性制御を狙い、高次水素機能を誘起する。 1. YOxHyエピタキシャル薄膜の光誘起金属化のメカニズム解明を進める。構造モデルの妥当性を補強するため、X線吸収微細構造(EXAFS)解析によるY・Oの結晶構造解析を行う(A01、A05と連携)。この解析結果も含め、理論計算を用いた電子状態計算を行い、キャリア生成機構の解明を目指す(A05と連携)。また、金属化後の再絶縁化(120oC、2時間)を、室温かつより短時間で実現できるように、電解水素チャージ法の導入による水素組成調整を目指す(A02内連携)。 2. A01と連携し、赤外レーザー堆積法によるクロソ系錯体水素化物の薄膜合成に挑戦する。分解温度の高いCs2B12H12を最初のターゲットとして、成膜を行い、得られた知見を活用して、高いLiイオン伝導性を示す材料であるLi2B12H12の成膜を目指す。 3. A04およびA03と連携し、水素を蛍光発色によって可視化する視認性の良い新規な水素可視化法を開発する。さらに、水素の検出感度に優れると考えられるポリアニリンを用いた水素可視化法を適用し、腐食による水素侵入マッピングを行うとともに、金属中の微細組織と水素拡散挙動の動的可視化を行う。これらを基に水素脆化抑制の基本原理を求める。 4. 太陽電池の効率向上に向け、界面機能強化のための水素プラズマ処理の多次元プロセスパラメータの最適化を、ベイズ最適化を援用して適応的に実施する。水素局在による界面機能の高度化を実証できたため、開発中のシリコンナノ結晶をシリコン酸化膜に複合化した新規保護膜など多様な材料系への展開を図る。
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