研究領域 | ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 |
研究課題/領域番号 |
18H05516
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 初果 東京大学, 物性研究所, 教授 (00334342)
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研究分担者 |
小林 玄器 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 准教授 (30609847)
樋口 芳樹 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (90183574)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 水素 / ハイドロジェノミクス / 高次水素機能 / 水素と電子のカップリング / 電場応答スイッチング / ヒドリド伝導 / ヒドロゲナーゼ / 水素ー電子統一相図 |
研究実績の概要 |
本計画研究では、水素が「高速移動し、電子とカップリング(協奏)する機能」を高めるための高速移動化およびカップリング技術を創出し、他の水素機能との融合することで従来にはない新発想デバイス設計を確立するとともに、物質系を越えた統一的な水素と電子のカップリングの学理を構築することを目的としている。目的達成のために研究ステージを3つに分割して遂行している。ステージIとして、「高速移動機能、および水素―電子カップリング機能」の高度化および制御を行い、ステージIIとして、その機能と他の水素機能との融合による高次水素機能の誘起をし、ステージIIIとして、領域全体での連携による新発想デバイスの創製およびその背後にある学理構築を目指している。 本年度は、ステージI、IIとして、有機系材料では、無水純有機プロトン伝導体で優れた「高速移動機能」をもつプロトン伝導性を示す物質を系統的に作り、静的には有効な水素結合ネットワークの構築および構成物質の小さい酸性度差の重要性、動的には分子回転ダイナミクスとプロトン伝導の高い相関性を明らかにし、高機能なプロトン伝導体の設計指針を明らかにした。無機系材料では、ヒドリド伝導体の伝導率を飛躍的に向上させ、開発したヒドリド伝導体とヒドリド・電子混合伝導体を積層し、ヒドリド化学反応デバイスを試作した。生体系材料においては、ヒドロゲナーゼの水素―電子カップリング制御技術を確立し、ヒドロゲナーゼ反応場において、水素H-D変換、オルト水素ーパラ水素変換反応の計測実証を行った。さらに、観測された現象を水素―電子カップリングの観点から物質系を越えて整理し、統一的な概念の構築に向けた議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、有機系、無機系、生体系各々で、水素の「高速移動機能」、および「水素―電子カップリング機能」の高度化および制御を進めた。(1)有機系では、無水有機プロトン伝導におけるプロトンの高速移動化を検討するため、系統的に伝導体を作製し、プロトン伝導性向上の指針を明らかにした。つまり、有効な水素結合ネットワークが構築されていること、酸―塩基(共役酸)の酸性度が近いこと、分子の秤動運動の増大が伝導性向上と相関があることを、高温X線測定、赤外分光、核磁気共鳴測定から見出し、その結果を学術論文にまとめた。(2)無機系では、ヒドリド伝導性を有するカップリング系酸水素化物を合成し、伝導率、輸率、結晶構造およびこれらの相関を調べ、ヒドリド伝導機構を明らかにすることに成功した。(3)生体材料系では、カップリングシステムの調製と、ヒドロゲナーゼによるプロトン・電子輸送および酵素反応の解明を行い、カップリング機構を明らかにした。さらに、有機系、無機系、生体系における水素ー電子カップリングによる機能発現を俯瞰し、水素種を変幻自在に変化させる制御因子を考察した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、各物質系で、水素―電子カップリング機能を強化し、それらを複合化したデバイス開発、およびその背後にある学理構築に向けて領域内連携を駆使して取り組む。(1)有機系では、高伝導性を有する優れた無水純有機プロトン伝導体の単結晶、粉末ペレット、薄膜とプロトン伝導の形態依存性を明らかにし、無水有機プロトンセンサーデバイスの設計を領域内A03-1班と共に進める。また、水素―電子カップリング有機伝導体については、発見された圧力誘起超伝導について、水素と電子の量子カップリング効果を明らかにする。(2)無機系では、水素―電子カップリングシステムでは、A01班の高密度水素の知見をヒドリド伝導体の物質設計に取り入れ、さらに低温で動作するヒドリド伝導体の開発と伝導機構の解明を行う。電極/電解質界面制御と電極表面の反応場形成については、さらに多電子反応が制御できるよう、A02・A04班と共同で検討する。A04班のオペランド計測、A05-2班の理論計算と連携し、ヒドリド伝導から電子・プロトン解離/再結合までのデバイス反応の機構解明を行う。(3)生体系では、ヒドロゲナーゼにおいて、ラマン分光を用いた酵素活性測定をA05-1班と共同で行う。ヒドロゲナーゼが触媒する水素分解・生成化学反応、H-D交換反応、および、オルト水素-パラ水素の変換反応をラマン分光法により、同時に測定する装置を開発する。これを用いて、系を乱すこと無く触媒反応を追跡する手法を確立する。 各材料系における高速移動中の水素の電荷変化を計測・計算から捉え(A04・A05班との連携)、各試料における水素の結合状態や機能との関連性を明らかにする。さらに、観測された現象を水素-電子カップリングの観点から物質系を越えて整理し、学理構築に向けた統一的な評価基準を確立する。
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