計画研究
本計画研究では,様々な材料中の水素を精密に計測するための核反応法,中性子回折,X線回折の高度化を図るとともに,材料の水素化過程や機能発現その場解析可能なオペランド計測技術の開発を目指している.これらの計測法を駆使し,新学術領域の他の計画研究と連携することで,新規水素化物や水素化過程の解析を行う.さらにシミュレーション技術と連携して水素データ同化技術を確立することで,ハイドロジェノミクスの基盤を築き,高次水素機能を誘起する学理構築を目指している.昨年度までに,個々の計測技術の高度化を行った.NRAについて,本年度は,チャネリング同時測定のためのビームコリメータと試料回転機構の導入を行った.ビームコリメータによりビームの並行度を10-3以下に抑制し,試料回転機構により3軸試料精密制御を実現し,金属Pdについて2次元チャネリングプロファイルとNRAの同時測定に成功した.NDについて,前年度に導入したラジアルコリメータの性能評価を行った.標準試料測定データの絶対値補正およびシミュレーションデータの比較,Rietveld法による結晶構造解析を行うことで,オペランド環境においてラジアルコリメータ使用によるデータの信頼性を実証した.また,偏極中性子を用いた回折測定を行うための実験装置の開発を行った.前年度行ったX線全散乱測定の高度化に基づき,原子二体分布関数の実空間領域をこれまでの最大10nm程度から20nm程度までにすることに成功した.コヒーレントX線回折イメージング測定装置の開発に着手し,ビームラインの整備,X線検出器用の小型クリーン・ドライ・エア発生装置の導入, 100nm級粒子観察用デジタルマイクロスコープの導入,試料加熱装置の整備を行った.これらの装置開発に加え,シミュレーションによるデータ同化技術開発を行い,回折データをもとにLi(CB9H10)の構造解析を進めた.
2: おおむね順調に進展している
計測技術の高度化と開発については,すべて計画通り進むとともに,計測技術間の連携,シミュレーションとの連携も進んでいる.核反応法について,昨年度中に背景信号の低減および信号処理エレクトロニクスの増強が予定通り完了し,今年度もチャネリング装置の開発が予想以上に順調に進展し,金属Pdについて2次元チャネリングプロファイルとNRAの同時測定に成功するにいたった.これにより,格子間水素位置解析の準備が整った.中性子散乱について,前年度に導入したラジアルコリメータの性能評価を種々の方法で行い,予想以上にS/N比が向上し,オペランド環境での解析に有効であることを実証した.偏極中性子を用いた回折測定装置の開発も予定通り順調に進んでいる.X線回折の原子二体分布関数解析も計画通り進み,実空間領域の拡張に成功した.コヒーレントX線回折イメージング測定装置の開発は,新たなビームラインでの開発となったにもかかわらず順調に進んでいる.Li(CB9H10)の回折データをもとにシミュレーションと融合したデータ同化技術の開発を進め,Li位置を同定するにいたった.これらの計測法を用いた研究として,他の計画班と連携を保ちながら概要に列挙した課題に取り組み順調に成果をあげている.前年度に引き続きPdナノ薄膜の水素化過程を調べ,温度依存性から拡散における量子効果を明らかにし,さらに中性子非弾性散乱測定から水素の振動状態の観測に成功した.水素貯蔵合金V10Ti55Cr45の水素吸放出について中性子全散乱解析に加え,中性子非弾性散乱,X線回折による解析を行い,2相への分離が劣化の要因である可能性を指摘した.イットリウム酸水素化物の光励起絶縁体ー金属転移およびチタン水素化物薄膜のキャリア反転について,NRAによる水素の定量,X線回折,さらにシミュレーションと融合した解析を進めた.
核反応法について,信号処理系の高度化とチャネリングーNRAの同時計測システムが完成したため,この装置を用いて以下の研究に取り組む.これまで行ってきたPdナノ薄膜の水素化について,低温における水素イオン打ち込みで形成される水素化物をその場チャネリング-NRA測定することで,格子内の水素位置を解析し,中性子非弾性散乱の結果もあわせて,輸送特性および量子拡散との相関を明らかにする.チタンおよびニッケル酸化物,について,水素化過程のその場NRA観測を行うことで,輸送特性,特に金属ー絶縁体転移と水素量の関係を明らかにする.特に詳細な構造について,水素データ同化により,骨格構造と水素位置の詳細を明らかにする.中性子散乱について,前年度までに,オペランド中性子全散乱測定のためのラジアルコリメータを導入しその性能評価を行った.残された課題である散乱の絶対強度評価を行い,オペランド中性子全散乱装置を完成させる.偏極中性子散乱装置について,H2Oをモデル試料として実験を行い,軽水素位置の高精度決定の要因を明確化し装置の開発を進める.また,前年度に引き続き,V10Ti55Cr45の劣化メカニズムについて,中性子全散乱およびX線回折の両面からサイクル依存性を詳細に調べることで,2相モデルの妥当性を検証する.X線回折について,これまでに着手したコヒーレントX線回折イメージング法を完成させる.導入したマイクロスコープとX線との迅速な調整機構を導入し,金属ナノ単一粒子の水素化過程オペランド3次元非破壊イメージングを目指す.原子二体分布関数による相補的な解析により,ナノ結晶粒子内の水素化による構造変化の総合的な解析を行い,理論計算とも融合することで,ナノ粒子特有の水素化特性を明らかにする.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (21件) (うち査読あり 16件) 学会発表 (48件) (うち国際学会 19件)
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