研究領域 | ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 |
研究課題/領域番号 |
18H05518
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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研究分担者 |
町田 晃彦 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員 (70354983)
大友 季哉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (90270397)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 水素 / 核反応法 / 中性子散乱 / コヒーレントX線 |
研究実績の概要 |
本計画研究では,様々な材料中の水素を精密に計測するための核反応法(NRA),中性子回折(ND),X線回折(XRD)の高度化を図るとともに,材料の水素化過程や機能発現その場解析可能なオペランド計測技術の開発を目指している.これらの計測法を駆使し,新学術領域の他の計画研究と連携することで,新規水素化物や水素化過程の解析を行う.さらにシミュレーション技術と連携して水素データ同化技術を確立することで,ハイドロジェノミクスの基盤を築き,高次水素機能を誘起する学理構築を目指している. 昨年度までに,個々の計測技術の高度化をはかるとともに,チャネリング-NRA (c-NRA)法の開発,オペランドND測定法の確立,ブラッグコヒーレントX線回折イメージング(BCDI)測定法の開発を行った.本年度は,c-NRAについて同位体を同時に弁別して測定する手法の開発,NDについて軽水素の中性子非干渉性散乱成分を除去するための偏極中性子線の偏極度評価,BCDIについてオペランド測定環境の整備,を進めた.これらの手法を活用して,水素化物に関する研究を推進した.これまでの研究でキャリアの異常が見られているTi水素化物について,c- NRAを用いて水素サイトの解析を行った.またオペランドNRAおよび光電子分光を用いて,希土類ニッケル酸化物の水素誘起金属ー絶縁体転移の解析を進めた.水素吸蔵合金 V10Ti35Cr55の劣化機構とLi5MoD11およびMg6WD16の構造について,NDを用いて検討を行い,さらに水素の関与する振動・回転状態解析を行った.Pdナノ結晶試料について,水素ガス雰囲気下でのBCDIによる観測を行った.また,A01と連携して金属酸化物への水素イオン照射による電子状態変調効果,高温高圧合成した新規水素化物の放射光X線回折測定,A02と連携して太陽電池ヘテロ膜解析,酸水素化物薄膜解析,を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計測技術について,開発した計測法のさらなる高度化を行いながら,種々の水素化物の解析と物理メカニズムの解明を進めている.チタン水素化物薄膜について,c-NRAによる2次元マップの高精度測定に成功した.2方向での測定を行うことで,薄膜の格子歪解析が可能となった.また,これまで軸チャネリングのみに着目してきたが,面チャネリングに着目するとより高精度な解析が可能であることを見出した.シミュレーションを用いてチャネリングパターンの定量的解析を行い,チタン水素化物では水素は主にTサイトを占有するが,一部の水素はOサイトを占有することを明らかにした.希土類ペロブスカイト型Ni酸化物について,希土類の異なる試料を作製し水素誘起金属―絶縁体転移をオペランドNRAにより調べた.水素量に対して,2種類の絶縁体相が存在する可能性を見出した.これまで絶縁体化しないと考えられていたLa系酸化物も水素により絶縁体化することを見出し,その水素量の定量に成功した.水素貯蔵合金V10Ti35Cr55の水素吸蔵放出サイクルによる劣化過程について,中性子非弾性散乱測定を行い,水素放出相において水素の振動モードがサイクルに依存して変化することを見出した.またより微量試料でも実験できるように,ラジアルコリメータ構造の改良を進めた.偏極中性子システムを導入,試料近傍での偏極率評価を行い,回折実験に十分な偏極度を有することを明らかにした.新たに,40nm級および70nm級のPd ナノ結晶試料を合成し,水素ガス雰囲気下でのBCDI法による一粒子の3次元非破壊イメージングを行った.これまで問題となっていた温度変化によるドリフト抑制に成功し,水素化途中のリアルタイムX線回折パターン計測に成功した.回折点の詳細な解析から,固溶体と水素化物が一粒子内で共存していることを示唆する結果を得た.
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今後の研究の推進方策 |
Pd試料では,表面近傍で水素がバルクとは異なる位置を占めることが示唆されている.単結晶Pd薄膜の作製を行い,深さ分解c-NRA測定を実施することで,サブサーフェス水素サイトの同定を行う.Ti水素化物について,同位体混合試料を作製しc-NRA同位体同時測定を行うことで,水素位置,振動振幅の同位体効果を調べる.PtおよびV薄膜について,NRAとNDを併用することで,水素拡散計測を行いトンネル拡散の影響を調べる.ペロブスカイト型Ni酸化物について,NRAによる水素量定量と光電子分光による電子状態変化を組み合わせることで,水素誘起金属絶縁体転移のメカニズムを解明する.特にこれまで見出した2種類の絶縁体相の起源を明らかにする. 水素貯蔵合金V10Ti35Cr55の水素吸蔵放出前後試料について,中性子全散乱測定から導出される2体分布関数を解析して局所構造のサイクル依存性を調べる.各金属元素と水素との距離を精密に解析することで,吸蔵水素および放出後の残留水素と水素吸蔵放出サイクル特性との相関を明らかにする.データ同化も併用して水素吸蔵による劣化メカニズムの解明を行う.新たに開発した偏極中性子ビームを用いてH2Oの測定を行い,解析法の開発も進めながら,構造解析を行う. BCDIについて,試料ホルダーの改良を行うことでオペランド測定における水素圧制御性を高め,より詳細な水素化過程観測を実現する.開発したシステムを用いて,種々の形状を持つパラジウムナノ結晶粒子の水素化に伴うリアルタイム3次元イメージングを行う.原子二体分布関数解析による局所構造解析を相補的に利用し,水素化による特徴的な構造・歪などの解析を行う. 引き続き,A01-A04およびA05-1との連携を強化し,新規水素化物の解析を行う.
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