研究領域 | 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み |
研究課題/領域番号 |
18H05522
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北澤 茂 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00251231)
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研究分担者 |
西本 伸志 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (00713455)
貴島 晴彦 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10332743)
中野 珠実 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (90589201)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 時間の流れ |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒトとサルの脳を対象として楔前部を中心とする神経活動の計測を行い、現在(楔前部)を中心とする「時間の流れ」の神経基盤を解明する。本年度は以下の4項目の研究を実施した。 1. 言語を介さない時間地図の描出: 映像と音声を含む刺激セットを作成し、同刺激条件下におけるヒト脳活動記録(fMRI記録)を完了した。また刺激中に現れる時間に関連した情報を取り出すためのタグ付けの作業を完了した。さらに、3秒の自然動画刺激データベースの動画(360本)を用いた言語を介さない新たな心理物理課題を作成して、応答に関する定量モデルを作成した。 2. 時間の流れの内観と脳の内部状態(時間地図の勾配など)の関係の解明:瞬目の同期が動画を視聴している時にどれだけ関心を持って見ているかの引き込まれ方の定量指標となることを示す成果を得た(Nakano & Miyazaki, 2019)。 3. サルの時間地図と神経基盤の解明:ヒトと同等の自然動画刺激を使ってサルの脳機能画像の計測を開始することを目標とした。すでに2頭のサルの訓練を終了して、1.で開発した非言語性の自然動画刺激を提示してfMRIを使った脳機能画像計測を開始した。 4. ヒトのMEG/EcoG計測研究: 健常被験者に用いるのと同じ動画と音声刺激を提示して、脳外科の治療で楔前部に硬膜下電極を埋設した患者の脳から脳磁図(MEG)・皮質電位計測(Electrocorticogram, ECoG)を随時行うことを目標とした。すでにTangら(2020)と同じ言語刺激課題を用いて、5名の被験者からのデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要に記した通り、着実に研究が進展しているため。また、各研究項目に関連した下記の論文を発表した。 1.2.Nishimura, Uchimura, Kitazawa (2020) Journal of Neurophysiology:現在を表現する領域である楔前部には、目を動かしても動揺しない背景を基準とする空間座標系も配置されている。新しい背景に遭遇した後、新しい背景を基準とする座標系が成立するには1秒程度の時間を要する。楔前部には1秒程度の「現在」周辺の情報を統合する機能が備わっている可能性がある。 1.2.Nakai & Nishimoto (2020) Nature Communications:103個の認知課題に対する脳の活動を計測・解析して、脳の認知機能マップと課題間の類似性を反映する課題機能マップを描き出した。時間認知に関連する8個の認知課題の分布については1)未来想像課題(10)と過去想起課題(14)は極めて近い、2)刺激音のリズムが一定かどうかの判断(88)と、音の継続時間の判断(68)は比較的近いのに、動画の継続時間の判断(67)は3倍程度離れている、3)時計の時刻を読む課題(19)は他の課題の対極にある、など時間認知機能は脳の様々な領域に様々な組み合わせで分布していることが明らかとなった。今後詳細が明らかになる「時間の流れ」の神経基盤の比較対象として極めて重要な成果。 4.Shiraishi, Kishima, Yanagisawaら(2020) Journal of Neural Engineering:時間の認知の脳内メカニズムを解明するには、多数のECoG電極が持つ情報を効果的に引き出して作業仮説を検証することが重要である。本研究では従来のフーリエ変換を用いた解析法に代わるDynamic Mode Decomposition法を用いた解析法が、運動の推定精度を向上させることを示した。本研究にもこの手法を活用する。
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今後の研究の推進方策 |
1. 言語を介さない時間地図の描出:ヒト脳活動記録(fMRI記録)を解析して、時間の流れの知覚の神経基盤を明らかにする。 2. 時間の流れの内観と脳の内部状態(時間地図の勾配など)の関係の解明:行動課題の各々について、十分な人数のデータを集め行動課題の特性を確認する。さらに、課題実施中の脳活動の非侵襲計測を行い解析する。 3. サルの時間地図と神経基盤の解明:fMRIの計測を進めるとともに、楔前部に多点電極を刺入してニューロン活動の記録を行う。 4. ヒトのMEG/EcoG計測研究: 言語刺激によって喚起される過去・現在・未来の感覚に対応する神経基盤を明らかにするためにEcoG計測データをさらに収集して解析する。
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