研究領域 | 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み |
研究課題/領域番号 |
18H05523
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 真樹 北海道大学, 医学研究院, 教授 (90301887)
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研究分担者 |
村上 郁也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (60396166)
寺尾 安生 杏林大学, 医学部, 教授 (20343139)
天野 薫 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (70509976)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 計時 / リズム知覚 / 大脳小脳ループ / 大脳基底核ループ / 脳波律動 / 病態生理 / 機能介入 / 霊長類 |
研究実績の概要 |
本研究では、日常生活に必要となる時間情報の脳内処理機構をヒトや動物実験を対象に多面的に探索している。3年目となる令和2年度は、これまでのデータを論文等にまとめるとともに、研究のさらなる発展を目指して実験を継続した。 研究代表者の田中(北大)は動物実験を中心に行い、周期的な刺激欠落を検出させる課題を用いてサルの小脳と線条体の記録実験を進めた。また、これまでに行ってきた運動視床の記録実験や同期運動、視覚探索の研究、さらには光刺激による大脳視床路の機能解析の成果などを論文にまとめて報告した。 研究分担者の村上(東大)は、引き続き視覚心理物理学的実験を行った。視覚標的の可視性の大小に伴う時間知覚の変容の心理物理学的証拠を得るとともに、実験者の介入によって内的表現を操作する手法を開発し、相互作用の生じる微小時間過程を明らかにした。さらに、視覚の律動的刺激に対する順応後の律動知覚の変容について、時間周波数をさまざまに変えて計測し、順応効果の視野普遍性を確認した。これらはいずれも学会発表済みである。 研究分担者の寺尾(杏林大)は、パーキンソン病(PD)、進行性核上性麻痺、健常者で時間二分課題、時間生成・再生課題を行い、PDにおける時間認知異常の特徴を明らかにして論文を発表した。また、健常者の右側前頭前野への連続磁気刺激によって時間幅の誤学習が影響を受けることを発見し、論文を投稿、採択された。また脳深部刺激治療を行なっているPD患者で時間課題にどのような変化が起きるかを検討し、その結果をまとめた論文を投稿中である。 研究分担者の天野(NICT)は、時間的に近接した二つのターゲットを検出する注意の瞬き課題を用いて、妨害刺激の有無によって行動成績の時間的な変動を周期が異なることを発見した。研究員の異動によって研究費を繰越す必要が生じ、令和3年度にこれを執行した。天野自身も令和3年度から東大に異動した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度はコロナ禍によって実験に制限があったが、4つの研究室で動物を用いた神経生理学研究、健常者を対象にした心理物理実験、神経疾患における検討と磁気刺激を用いた機能介入、脳磁図やfMRIなどの脳機能計測と経頭蓋電流刺激を用いた視知覚の操作などを並行して進め、それぞれ成果があがっている。年2回の班会議の他、令和2年度は班内でオンラインの会議を7回開催して情報交換を行った。
研究代表者のサルを用いた実験では、順調にデータ収集を進めるとともに、これまでの研究成果を論文として発表した。研究分担者の村上は、時間が過小評価される現象を明らかにするとともに、内的表現を操作する手法を開発して相互作用の生じる微小時間過程を心理物理学的手法で明らかにした。また、視覚の律動的刺激に対する順応効果の視野普遍性を確認し、学会発表を行った。寺尾は、PD患者36名、進行性核上性麻痺14名、健常者20名を対象に実験を行い、時間認知異常の特徴を明らかにして論文を発表した。また、健常者を対象にした磁気刺激実験やPD患者の深部脳刺激療法の効果を調べる研究も順調に進んでる。天野は、注意の瞬き課題を用いて新たな現象を発見した。妨害刺激が呈示されないときは標的刺激の検出成績はシータリズムで変動し、妨害刺激を呈示すると検出成績はアルファリズムで変動した。この周波数の変化はMEGで計測した神経律動のパワー変化と一致しており、刺激呈示前の位相が検出試行と非検出試行で異なっていた。研究員の異動によって研究費の繰越しが必要となり、これらの研究は令和3年度にも継続して行い、論文投稿することができた。
以上のように、各研究室で成果があがっており、コロナ禍にもかかわらずzoomの利用によって相互の情報交換を進めることもできたことから、研究は順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者の田中(北海道大学)は動物実験を中心に進める。これまでに行ってきた小脳核からの記録データをまとめるとともに、多点同時記録システムを導入して記録実験を加速させる。また、天野らの協力を得ながら時間生成課題を訓練したサルへの頭蓋交流電流刺激の影響を調べる。事象の時系列によって作業記憶の更新を行うn-back課題を用いた前頭連合野の記録実験も並行して進める。 研究分担者の村上(東京大学)は、時間長知覚や律動知覚におよぼす、注意の焦点の移動、運動企画や運動実行の関与を調べる。位置ベースおよび特徴ベースの注意の操作による時間知覚への影響を心理物理学的に調べ、また、すでに導入した高速画像呈示システムを用い て高速眼球運動と連動させた動的画像および律動画像を呈示し、網膜入力信号および視覚世界における空間表現と時間表現の整合性に関する実証データを得る試みを加速させる。 研究分担者の寺尾(杏林大学)は、脳におけるリズム形成の機序を明らかにするため、二肢を同期して一定のリズムで動かす協調運動の基盤となる神経機序の検討を行う。同様の手足の協調運動で過剰な位相引き込みを示すことが知られる自閉スペクトラム症者で脳内の神経伝達物質の異常をMRスペクトロスコピーにより調べるとともに、様々な皮質領域を連続磁気刺激し可塑性を誘導して機能変化を起こさせることにより二肢の協調運動にみられる変化を調べる。 研究分担者の天野(東大)は、早期に研究環境の整備を進める。その上で、時間知覚において異なる周波数の神経律動が果たす機能の違いを心理実験、MEG実験の両面から明らかにする。特に注意の瞬きや跳躍運動錯視と呼ばれる錯覚現象に着目し、行動レベルでの周波数と神経律動の周波数の対応関係を検討する。また、経頭蓋磁気刺激、経頭蓋電気刺激の効果の個人差を軽減し、グループレベルでの介入効果を大きくするための手法開発も並行して行う。
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