計画研究
本計画研究では、時間情報の脳内機構を多面的に調べている。今年度は、これまでの研究を継続しつつ、新たな実験課題に着手した。研究代表者の田中(神経生理学)らは、サル用の大型ケージを整備して研究の効率化を図るとともに、新たに大脳皮質をターゲットとした実験を開始した。また、リズム知覚に関連した線条体・小脳核の神経活動や眼球運動を用いた時間学習について論文を発表した。研究分担者の村上(実験心理学)らは、秒未満の時間知覚について、オンセット時刻、持続時間、明滅テンポの知覚の観点から心理物理実験を行い、これらの心理量と他の認知機能との関係を調べた。特に、高精度で知覚時刻を実測する方法を開発し、錯視を用いて注意の移動に伴う時間知覚の変容を定量化した。その結果、復帰抑制によって標的への反応が遅れる効果が、標的のオンセットの知覚の遅れによって説明できることがわかった。寺尾(病態生理学)らは、パーキンソニズムを呈する神経疾患患者で時間生成・再生課題・二分課題を行い、秒単位の記憶を伴う課題の成績が症状の進行とともに低下することを見出した。また、健常者で時間幅を実際と違う時間長として学習する誤学習課題を行い、学習保持の時間経過を調べた。学習前に4連発パターン磁気刺激で右一次運動野、前頭前野、側頭頭頂接合部を刺激すると前頭前野の刺激時のみ誤学習保持の時間が延長することを発見した。天野(先端脳計測)らは、時間的に近接して呈示される二つのターゲット刺激(例えば数字)を検出する課題において、二つ目のターゲットを見落としやすくなる注意の瞬きと呼ばれる現象を用いて、視知覚のリズムについて検討した。その結果、二つ目のターゲット刺激の検出成績が、ターゲット刺激間の時間差に応じて周期的に変動し、その変動周波数は課題に関係のない妨害刺激(例えば文字)の有無によって変化することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
4つの研究室で動物を用いた神経生理学研究、健常者を対象にした心理物理実験、神経疾患における検討と磁気刺激を用いた機能介入、脳磁図やfMRIなどの脳機能計測と経頭蓋電流刺激を用いた視知覚の操作などを並行して進めるとともに、年2回の班会議やメールなどを利用して頻繁に情報交換を行い、互いの研究を補完し合っている。研究代表者のサルを用いた研究については、これまで小脳核と線条体で進めてきた神経活動記録の成果の一部と、眼球運動を用いた時空間学習の行動実験について論文をまとめた。引き続き同部位における神経情報の詳細を調べるとともに、次の課題に向けた準備を着実に進めている。研究分担者の村上は、知覚時間長や同期の特性に関して、注意との関連で初年度に新現象を発見したのに引き続き、今年度は新たに注意の焦点の移動に伴う時間知覚の変容の心理物理学的証拠を得た。さらに、視聴覚の律動的刺激の受容の時間遅れ特性に関して方位や形状など複数の知覚属性について計測し、いずれも査読有国際論文に刊行した。同じく研究分担者の寺尾は、健常者と様々な神経疾患患者で時間情報処理課題を用いて時間認知・生成に関わる神経機構の機能異常を調べ、疾患群ごとの特徴を明らかにした。健常者に時間幅を実際と違う時間長として学習する誤学習課題を行わせ、これに対する連続磁気刺激の影響を調べた。研究成果を査読有国際論文に投稿中である。天野の研究室では、時間的に近接した二つのターゲットを検出する注意の瞬き課題を用いた心理物理実験を行なった。その結果,ターゲット間の時間差に応じた二つ目のターゲットの検出成績が周期的に変動し、その周波数は課題と無関係な刺激を抑制する必要性の有無によって変化することを発見した。この知見は、日本基礎心理学会で優秀発表賞を受賞するなどの評価を受けており、研究は順調に進捗している。
公募班も交えた班会議などを利用して情報を共有しつつ、各研究室で互いに関連した研究を並行して進めることを予定している。田中らは、サルを用いた研究を継続し、リズムに関連した皮質下ニューロンの感覚運動成分を分離することで、小脳・基底核の情報処理の違いを明らかにすることを目指す。また、これらの皮質下信号が大脳皮質や視床でどのように処理されるか調べるとともに、時間知覚と密接に関連した注意や作業記憶に関した行動課題の開発を進める。村上らは、時間ずれやリズム知覚の報告での、反応時間の遅延に及ぼす知覚過程、意思決定、運動実行の関与を調べるため、今後は、すでに導入した筋電位および脳波計測との相関解析を進める。また、高速画像呈示システムを用いて高速眼球運動と連動させた動的画像を呈示し、視覚の時間的揺らぎ補正に関する実証データを得る予定である。寺尾らは、前年に続き深部電極治療中のパーキンソン病患者でスイッチをon、offにしたときの時間認知・生成課題の遂行能力の変化を調べ、大脳基底核の時間認知・生成への関与を検討する。秒・ミリセカンド単位の主観的時間経過の知覚に関わる神経機構を調べるため様々な皮質領域で連続磁気刺激を行い知覚の変化を見る実験を行う。天野らは、注意の瞬き課題を用いた心理物理実験によって明らかになった、二つのリズムの神経基盤を明らかにするため、脳磁計(MEG)を用いて課題遂行中の脳活動を計測する。特にアルファ律動やシータ律動の位相と課題成績との関連に着目して分析を行い、脳のどの領域の律動あるいは領域間の律動を用いた情報伝達が重要であるかを明らかにする予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件) 備考 (5件)
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