時間処理およびその情動的価値の生成と崩壊

2018 年度 実績報告書

• 研究領域: 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み
• 研究課題/領域番号: 18H05525
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 池谷 裕二 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (10302613)
• 研究分担者: 梅田 聡 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (90317272) ; 河村 満 昭和大学, 医学部, 客員教授 (20161375)
• 研究期間 (年度): 2018-06-29 – 2023-03-31
• キーワード: 時間 / 脳

研究実績の概要

池谷班では、まず動物実験によって「時間」が個体間でコピーされることを示した。これはヒトにおける共感の原始的な形態であると考えられた。さらにエタノールによって共感様反応が増幅することを示した。さらに実験動物研究で開発された心理的時間の操作法を臨床応用につなげた。また人工知能を用いて神経活動の時間の系列を解読した。この活動時間パターンが可塑性の駆動力になっていることを見出した。経験が睡眠中に時間経過とともに記憶として固定化されることを示した研究について解説・評論をおこなった）。時間処理において現在の人工知能には欠けているアルゴリズムを見出した。脳の血管網を解析する手法を開発し、時間研究におけるfMRI信号と神経活動に還元するための基礎知見を整えた。またノスタルジア研究について、懐かしさや久しぶりという感覚が生じやすい状況を明らかにした。一時的に集中して経験し、その後に経験が途絶えるという条件で生起しやすく、かつポジティブな出来事でそれが強かった。未来思考に関しては、前頭前野の先端部である前頭極（ブロードマン10野）を中心としたネットワークが重要な役割を担っていること、また、そのネットワークの活動が、心臓を中心とした内臓の動きと深い関連があることを、求心性信号を脳波で捉える研究で明らかにした。また、抑うつ症状との強い関連性があることも示された。マインドワンダリングの研究においては、ぼぉっとすることを予測する信号のパターンを明らかにすることや、安静時脳活動のゆらぎの質と認知障害の程度に深い関連性があることが、計算論的アプローチによる解析によって見出された。さらに、情動の同期に関しては、自律神経レベルのマルチ指標の解析を行い、顔における皮膚血流の同期が生じていることなどを明らかにした。いずれも情動や記憶の時間的特性と関連の深い事実であり、今後も継続して進める。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初に立てた計画通りに進んでいるため。

今後の研究の推進方策

これまでの成果を受け、数秒～数分単位の時間の経過を認識する神経回路メカニズムを明らかにする。この目的のために、時間経過を計測させて判断させる計時弁別課題をげっ歯目に課し、そのときの神経細胞の活動を記録する。多チャンネルシリコンプローブ電極を用いた大規模細胞外活動記録法により、海馬、脳梁膨大後部皮質、楔前部、帯状回、前頭葉内側部のうちの複数領域から、数十個～数百個の神経細胞の活動を同時に記録する。一方、ヒトにおいては、時間を超えて確立した自己が形成されるが、この背景を探るため、精神疾患と神経疾患という2つの側面から、その認知神経メカニズムの解明を試みる。脳梁が未成熟である先天性鏡像運動症を対象に、感覚刺激による左右の時間順序を判断させることで、大脳間の統合処理における時間認知の神経発達を解析する。ノスタルジア研究および未来思考研究については、臨床応用的な側面に着目した研究を中心に行う。これについては、マインドワンダリングに関する研究についても同様であり、これまでの研究を活かしつつ、安静時fMRI・課題fMRI・構造MRIのすべてを統合的に解析することにより、認知症の程度を把握する指標の開発にも取り組む予定であり、現在も既に進みつつある。情動同期の研究に関しても、主に自律神経の予測機能に着目した時間的成分の重要性を調べる実験を実施する予定で、既に予備実験を始めている。ただし今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、実験の実施が計画通りにいかない可能性があり、これについてはオンラインシステムを用いた行動研究を先に実施するなど、可能な限り、柔軟な対応をする予定である。

研究成果

• [雑誌論文] Central histamine boosts perirhinal cortex activity and restores forgotten object memories (2019)
  • 著者名/発表者名: Nomura, H., Mizuta, H., Norimoto, H., Masuda, F., Miura, Y., Kubo, A., Kojima, H., Ashizuka, A., Matsukawa, N., Baraki, Z., Hitora-Imamura, N., Nakayama, D., Ishikawa, T., Okada, M., Orita, K., Saito, R., Yamauchi,N., Sano, Y., Kusuhara, H., Minami, M., Takahashi, H., Ikegaya, Y.
  • 雑誌名: Biol. Psychiat 巻: 86 ページ: 230-239
  • DOI: 10.1016/j.biopsych.2018.11.009
  • 査読あり
• [雑誌論文] Spontaneous activation of event details in episodic future simulation. (2019)
  • 著者名/発表者名: Ito, Y., Terasawa, Y., Umeda, S., & Kawaguchi, J.
  • 雑誌名: Frontiers in Psychology 巻: 10 ページ: 625
  • DOI: 10.3389/fpsyg.2019.00625
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Ethanol facilitates socially-evoked memory recall in mice by recruiting pain-sensitive anterior cingulate cortical neurons (2018)
  • 著者名/発表者名: Sakaguchi, T., Iwasaki, S., Okada, M., Okamoto, K., Ikegaya, Y.
  • 雑誌名: Nat. Commun. 巻: 9 ページ: 3526
  • DOI: 10.1038/s41467-018-05894-y
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Left posterior orbitofrontal cortex is associated with odor-induced autobiographical memory: an fMRI study (2018)
  • 著者名/発表者名: Watanabe, K., Masaoka, Y., Kawamura, M., Yoshida, M., Koiwa, N., A., Yoshikawa, A., Kubota, S., Ida, M., Ono, K., & Izumizaki, M.
  • 雑誌名: Frontiers in Psychology 巻: 9 ページ: 687
  • DOI: 10.3389/fpsyg.2018.00687
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Insular activity during disgusting sound listening evaluated by heartbeat evoked magnetic fields (2018)
  • 著者名/発表者名: Kato, Y., Takei, Y., Umeda, S., Goto, Y., Mimura, M., & Fukuda, M
  • 学会等名: The Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Insular function with emotional experience and interoceptive awareness using the awake surgery. (2018)
  • 著者名/発表者名: Motomura, K., Umeda, S., Terasawa, Y., Natsume, A., & Wakabayashi, T.
  • 学会等名: The Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Age-related decline of the insular cortex and emotion recognition (2018)
  • 著者名/発表者名: Terasawa, Y., Umeda, S., Nishikata, S., Kikuchi, T., Maeda, T., & Den, R.
  • 学会等名: The Annual Meeting of the Organization for Human Brain Mapping
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] 慢性頭痛患者における内受容感覚 (2018)
  • 著者名/発表者名: 朝比奈正人・田仲祐登・辻 幸樹・伊藤友一・寺澤悠理・梅田 聡
  • 学会等名: 第46回日本頭痛学会総会
  • 招待講演
• [備考] 時間生成学 時を生み出すこころの仕組み
  • URL: https://www.chronogenesis.org/