研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
18H05527
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木村 宏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30241392)
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研究分担者 |
伊藤 由馬 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (70803245)
大川 恭行 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80448430)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | クロマチン / 遺伝子発現制御 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
(1)遺伝子活性化に働くクロマチン構造と動態:ゼブラフィッシュ胚性ゲノム活性化(ZGA; zygotic genome activation)のFabLEMを中心とした解析により、ZGAが起こる際にはヒストンH3K27のアセチル化が先に起こり、このアセチル化が転写の活性化に必要であることを明らかにした(Sato et al, Development, 2019)。さらに、同一胚で顕微鏡解析とエピゲノム解析を行う系を確立するため、ゼブラフィッシュ単一胚でのChIL-seqの条件検討を行った。主要なZGAが起こる1024細胞期の単一胚を用いて、Ser2リン酸化(転写伸長)型RNAポリメラーゼII(RNAP2Ser2ph)のChIL-seqを行い、活発に転写が行われるmiR-430領域をはじめいくつかの遺伝子への濃縮が確認された。 (2)遺伝子発現変動に働くクロマチン構造:遺伝子発現の生細胞可視化のために、RNAP2Ser2phとSer5リン酸化(転写開始)型RNAポリメラーゼII(RNAP2Ser5ph)を特異的に認識するMintbodyの開発を進めた。RNAP2Ser2ph-Mintbodyの開発に成功し、RNAP2Ser5ph-Mintbodyについても改良中である。また、1分子追跡と1分子局在化顕微鏡法の同時観察系の構築を行い、本手法を用いて、領域内共同研究を推し進めた。 (3)遺伝子発現安定化状態でのクロマチン構造と動態:終末分化した組織でのクロマチン構造と動態を解析するために、培養細胞の筋分化系を用いた解析を進めている。また、マウス個体の解析のため、Mintbody発現マウスの作製に着手した。さらに、骨格筋幹細胞特異的なヒストンH3バリアントの生理的な機能の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストンH3K27acがゼブラフィッシュのZGAに機能するこを示す論文を発表することができた。さらに、ChIL-seqを用いた単一胚のエピゲノム解析も可能になった。また、RNAポリメラーゼIIのリン酸化に対するMintbodyの開発も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)遺伝子活性化に働くクロマチン構造と動態:単一胚を用いたFabLEM-ChIL-seq解析を進め、ZGA直前(128-512細胞期)にH3K27acが濃縮する場所とそのタイミングを明らかにする。また、転写開始後のH3K27acが広がる時期についてもChIL-seqを進め、H3K27acの動態とその転写の開始と伸長に果たす役割を明らかにする。クロマチン高次構造データやトランスクリプトームを含む複数のクロマチンポテンシャルに関する情報を少数の細胞から同時に取得するマルチオミクス解析法を確立し、H3K27ac やRNAP2-Ser2phをハブとしたクロマチン構造と転写との関係を明らかにする。エピゲノム操作によりヒストン修飾による ZGAの制御機構を明らかにする (2)遺伝子発現変動に働くクロマチン構造:遺伝子の活性化と抑制に応じたクロマチンダイナミクスの観察により、遺伝子の活性化、抑制とそれらの修飾の動態、クロマチン動態を計測し、因果関係を明らかにする。これまでに構築した1分子追跡と局在顕微鏡法の同時観察系を用いて、生細胞内の特定のクロマチンと活性型RNAP2の動態をナノメートル・秒単位の解像度で計測する。これにより得られる分子動態・局在の定量情報を、クロマチン状態と結びつける解析を行う。 (3)遺伝子発現安定化状態でのクロマチン構造と動態:終末分化した細胞のクロマチン構造を明らかにするため、培養細胞の筋細胞分化系とマウス個体を用いて、終末分化後のクロマチンと転写の動態を明らかにする。Mintbody発現マウスを用いて、骨格筋や神経細胞でのクロマチン構造と転写動態のイメージング解析を行う。また、組織切片を用いたin situ ChIL-seqにより、エピゲノム解析を行う。ヒストンH3バリアント遺伝子を個別に破壊したノックアウトマウスの表現型を組織・個体レベルで解析する。
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