計画研究
真核生物の細胞核内に多数存在するRNAボディは、ノンコーディングRNAとタンパク質複合体が凝集して形成されたもので、生体膜に囲まれない構造体である。核内の局所に転写関連因子を蓄積させることにより、近傍クロマチンの転写活性や構造を規定していると考えられる。またRNAボディは、タンパク質-RNA分子が液-液相分離とよばれる物理現象を引き起こした結果の液滴であり、移動度は保たれながら、局所に関連因子が濃縮することで核内反応を効率的にしていると考えられている。RNAボディは、近隣クロマチンの転写のおこりやすさに対するクロマチンポテンシャルを理解する鍵と考えられ、本研究で解明に取り組む。具体的には、RNAボディであるエレノアクラウドと核小体について、その形成機序、転写制御機能、物性、細胞分化における役割の解析を行い、核内RNAボディによるクロマチン制御機構を解明することを目的としている。本年度は主に、ノンコーディングRNAエレノアが相互作用するゲノム部位、タンパク質を同定するための実験系の確立につとめた。また、核小体の形成に関わる因子群の中から特にリボソームタンパク質RPL5に焦点を絞り、細胞生物学的実験に加え、1分子観察、分子動力学を導入して、液-液相分離に関わる機序の解明につとめた。以上のように研究は順調にすすんでいる。
2: おおむね順調に進展している
1.エレノアがクロマチン結合因子であるかを検証するために、生化学的細胞分画、および1分子FISH解析を行い、良好な結果を得た。さらにエレノアRNAに特異的に結合する因子を同定するためにChIRP (Chromatin Isolation by RNA Purification) 法を様々な条件を用いて行っている。エレノアに対するタイリングオリゴDNAをデザインし、また、コントロールとして哺乳類細胞には存在しないLacZ配列に対するオリゴDNAをデザインした。一定の結果を得て、再現性などを検証している。また、RNAとゲノムDNAの相互作用をゲノムワイドに検出できるRADICLE (RNA And DNA Interacting Complexes Ligated and sequenced)-Seq法にも着手している。2. 核小体の形成に必要な因子としてリボソームタンパク質RPL5を同定し、SNAP-tagを融合した核小体因子を発現する生細胞の一分子追跡、ダイナミクスの定量化、分子動力学を用いたシミュレーションなどに着手して、順調にすすんだ。核小体の液滴としての性質の詳細な理解がすすんだ。3. 新型コロナウイルス感染拡大とその対応のため、計画代表者の研究所では1ヶ月程度原則自宅での勤務となり研究室で実験をできない期間があった。また、試薬や機器の入手が困難であったり、共同研究者の研究室を訪れることができないなど、研究活動に制約がかかった。しかしそれまでの研究成果を論文として報告することができた。特に研究分担者の落合が筆頭著者を務める論文では、転写バーストの詳細な分子メカニズムを報告した。
今までの研究成果をさらに展開させる。1. 引き続きChIRP-SeqとRADICLE-Seqを試みて、エレノアが相互作用するクロマチンをゲノムワイドに同定し、ふたつの方法に共通する結果を抽出したり、再現性を検証する。エレノアノンコーディングRNAの機能メカニズムを明らかにする最も重要な分子基盤を形作る。2.RPL5が関わる核小体の形成と機能メカニズムを明らかにする。試験管内ではRPL5は核小体タンパク質のNPM1の液相分離を促進することが報告されている。また、RPL5-NPM1(核小体構成因子)、NPM1-rDNA、rDNA-RPL5の相互作用も報告されている。これらを有効なパラメーターとして分子動力学的解析を行って、RPL5の細胞内のノックダウンでおきる現象をin silicoで再現することを試みる。最終的には核小体の物理的性質への寄与を調べる。またRPL5のノックダウンでみられるrDNAの核内配置異常を精査する。rRNAの転写、プロセッシングへの影響を調べる。核小体の構造形成・維持に果たす役割がDBA(ダイアモンドブラックファン貧血症)疾患に関わるかも検討する予定である。3.研究分担者の落合との共同研究によりエレノアRNAと、エレノアDNAを生細胞内で同時に観察する方法の確立をひきつづき検討する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 1件、 招待講演 8件) 図書 (5件) 備考 (2件)
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