研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
18H05532
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
中山 潤一 基礎生物学研究所, クロマチン制御研究部門, 教授 (60373338)
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研究分担者 |
小布施 力史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00273855)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / HP1 / ヒストン修飾 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヘテロクロマチン構造形成の分子機構の解明を目指し、以下2つの研究項目を中心に研究を実施した。
【1】HP1によるヘテロクロマチン制御(中山):ヘテロクロマチン形成におけるHP1アイソフォームの機能分担を明らかにするために、分裂酵母のSwi6とChp2に着目して解析を進めた。昨年度までにChp2がCSD領域を介してDNA/RNAと結合することを明らかにしていた。本年度はさらに詳細なEMSA解析を進め、CSD領域内でDNA/RNA結合に関与するアミノ酸残基を同定した。また、アフィニティー精製によって同定したChp2の相互作用因子について、酵母ツーハイブリッド法により、結合に関与する領域を明らかにした。
【2】増殖・分化のスイッチング過程におけるクロマチンの構造変換(中山・小布施):分裂酵母の胞子形成について、本年度はChIP-seq解析によりヒストン修飾の動態をゲノムワイドに解析した。その結果、代表的なヒストン修飾に関して栄養増殖中の細胞とは異なる胞子特異的な局在パターンの存在が明らかになった。ES細胞に関して、昨年度までの研究で、不活性X染色体に局在する機能未知のHP1結合因子を同定しHBiX2と名付けた。本年度はChIP-seq解析を行うことにより、HBiX2を細胞から除去すると、不活性X染色体上のH3K27me3の領域が減少し、H3K9me3の領域が亢進することが明らかとなった。一方、H3K27me3領域とH3K9me3領域との排他的関係は維持された。以上の結果から、HBiX2はH3K27me3が占める領域を維持し、H3K9me3領域が拡張するのを抑制する働きがあることが示唆された。また、HBiX2のパラログを見出しHBiX3と命名した。HBiX3は抑制的型ヒストン修飾の分布に対してHBiX2とともに冗長的に働くことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分裂酵母のHP1タンパク質であるSwi6とChp2に着目し、Chp2がSwi6には見られない特徴的なDNA/RNA結合能に関わる領域を明らかにした。この結果はHP1アイソフォームがどのように機能分担を果たしているかの理解につながる重要な成果だと考えられる。また分裂酵母の胞子を用いた解析から、栄養増殖中の細胞には見られない、胞子特異的なヒストン修飾の状態が明らかになった。この結果は、胞子がどのように転写状態を記憶しているかを理解するための重要な知見と考えられる。HBiX2、HBiX3を除去した時の表現型を、不活性X染色体上での抑制型ヒストン修飾の分布の変動として示すことが可能となり、HBiX2、HBiX3が持つ分子機能とクロマチン上での機能を結びつける基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1では、引き続きChp2の持つ特徴的なDNA/RNA結合能とその機能について解析する。実際にDNA/RNA結合に関与する領域に変異を導入した変異Chp2を発現する分裂酵母を作製し、この性質がChp2特異的な機能に寄与しているかどうかを検証する。また、繊毛虫類テトラヒメナで発現している複数のHP1様タンパク質の機能分担についても解析を進める。研究項目2の分裂酵母の胞子の研究に関しては、引き続き他のヒストン修飾のゲノムワイドな局在を解析するとともに、それらの局在が、胞子から栄養増殖への転換に及ぼす影響を検討する。ES細に関しては、これまでに不活性化X染色体に局在する機能未知のHP1結合因子HBiX2、HBiX3を同定し、これらが冗長的に働くこと、H3K27me3が占める領域を維持し、H3K9me3領域が拡張するのを抑制することを明らかにした。これらの結果を踏まえて、HBiX2、HBiX3と結合因子との相互作用の意義について、抑制型ヒストン修飾の分布の維持、制御に着目して明らかにする。また、ES細胞の分化系を用いて、HBiX2、HBiX3の除去が、分化に伴う抑制型ヒストン修飾の動態へ及ぼす影響を解析し、HBiX2およびHBiX3、抑制型ヒストン修飾の分布の生物学的な意義について解析する。
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