計画研究
クロマチンは、ゲノムDNAを細胞核内に収納する超分子複合体である。その基盤構造体はヌクレオソームであり、ヒストンバリアント、ヒストン修飾、ヒストンシャペロン、ヌクレオソームリモデラーなどのエピゲノム情報の変化や、様々な結合因子群が会合することによって、多様なヌクレオソーム構造が形成される。そのようなヌクレオソームの構造多様性とダイナミクスが、遺伝子の発現制御に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。本研究では、このヌクレオソームの多様な高次構造と動的性質を明らかにすることにより、遺伝子発現を制御する「クロマチンポテンシャル」の基盤原理を解明することを目指している。以下の項目1-4の研究を継続した。(項目1)リンカーヒストンにより構築されるヌクレオソーム高次構造の解明:新規に同定しているリンカーヒストンの機能ホモログに関して、ヌクレオソームとの複合体の調製法を確立しクライオ電子顕微鏡解析での構造解析を開始した。(項目2)ヘテロクロマチンの基盤となるヌクレオソーム高次構造の解明:昨年に引き続き、ヘテロクロマチン領域の局在因子の1つであるリンカーヒストンH1 が結合したHP1-ジヌクレオソーム-H1複合体の調製法の検討を行った。(項目3)遺伝子発現制御領域に形成されるヌクレオソーム高次構造の解明:ヒストンバリアントH2A.Jを含むヌクレオソームの再構成を行い、その立体構造をX線結晶構造解析にて決定した。クロマチンに結合する非コードRNAによるH2A-H2B除去活性を発見した。また、転写制御に重要なパイオニア転写因子群などと結合したヌクレオソーム複合体の構造および生化学的解析を行った。(項目4)ヌクレオソーム高次構造と転写制御能の相関関係の解析:再構成ヌクレオソームを用いた試験管内での転写反応系を用いて、RNA、ヒストンバリアント、リンカーヒストンなどの影響の解析系を構築した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、計画している4項目全てにおいて、当初の計画以上の進展が見られた。(項目1)「リンカーヒストンにより構築されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、新規に同定しているアミノ酸配列が保存されていないリンカーヒストンの機能ホモログDEKとヌクレオソームとの複合体のクライオ電子顕微鏡像を得ることに成功した。昨年得た低分解能での構造情報に矛盾しない立体構造情報を得つつある。(項目2)「ヘテロクロマチンの基盤となるヌクレオソーム高次構造の解明」では、リンカーヒストンH1 が結合したHP1-ジヌクレオソーム-H1複合体のクライオ電子顕微鏡解析のため、サンプル調製法の改良を行っている。(項目3)「遺伝子発現制御領域に形成されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、ヒストンバリアントの1つであるCENP-Aを含むトリヌクレオソームの再構成およびクライオ電子顕微鏡による立体構造解析に成功した。CENP-AヌクレオソームによってリンカーDNAの配向が変更され、特徴的な高次のクロマチン構造が形成されることを発見した。(項目4)「ヌクレオソーム高次構造と転写制御能の相関関係の解析」では、再構成ヌクレオソームを用いた試験管内での転写反応系を用いて、RNA、ヒストンバリアント、リンカーヒストンなどの影響について解析する系を構築することに成功した。
計画している4項目において、順調に進展しているため、計画通りに研究を推進する。特に、(項目1)「リンカーヒストンにより構築されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、独自性の高い新規に同定しているリンカーヒストンの機能ホモログDEKとヌクレオソームとの複合体の解析に注力することで、研究を効率よく推進するように努める。クロスリンク質量分析法なども併用することで、立体構造情報の精密化を図る(項目2)「ヘテロクロマチンの基盤となるヌクレオソーム高次構造の解明」では、昨年に引き続き、リンカーヒストンH1 が結合したHP1-ジヌクレオソーム-H1複合体のクライオ電子顕微鏡像の高分解能化を目指し、さらなるサンプル調製法の改善と画像取得法の改善を図る。(項目3)「遺伝子発現制御領域に形成されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、遺伝子発現領域のヌクレオソームに結合するパイオニア転写因子群とヌクレオソームとの複合体の解析を、立体構造解析のみならず生化学的手法も併用して推進する。(項目4)「ヌクレオソーム高次構造と転写制御能の相関関係の解析」では、ヒストンバリアント、リンカーヒストン、非コードRNAなどによる転写反応への影響を生化学的に明らかにしつつ、クライオ電子顕微鏡での立体構造解析を推進する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 5件、 査読あり 23件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 4件、 招待講演 13件) 図書 (1件)
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