研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
18H05534
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
胡桃坂 仁志 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (80300870)
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研究分担者 |
杉山 正明 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (10253395)
河野 秀俊 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, グループリーダー (40291918)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ヌクレオソーム / クロマチン / 遺伝子発現 / 転写 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
真核生物のクロマチンは4種類のヒストンとDNAからなるヌクレオソームを基盤構造ユニットとしている。本研究では、真核生物での遺伝子発現が、ヌクレオソーム単位でのクロマチン構造の多様性とダイナミクスによって制御されていることに着目し、そのメカニズムを解明することを目指している。本年度では、以下の項目1-4の研究を継続した。(項目1)リンカーヒストンにより構築されるヌクレオソーム高次構造の解明:クライオ電子顕微鏡によって、リンカーヒストン機能ホモログのヌクレオソームとの相互作用を立体構造レベルで解析した。(項目2)ヘテロクロマチンの基盤となるヌクレオソーム高次構造の解明: 引き続きHP1-ジヌクレオソーム-H1複合体の調製法の検討を行いつつ、その他のヘテロクロマチンタンパク質とヌクレオソームとの複合体の調製法の検討も行なった。これらの複合体について、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行い、低分解能の立体構造情報を取得した。(項目3)遺伝子発現制御領域に形成されるヌクレオソーム高次構造の解明:ヒストンH3mm18バリアントを含むヌクレオソームの立体構造をクライオ電子顕微鏡による単粒子解析によって解明した。そしてその構造的性質と細胞における機能の解析を、生化学、ゲノミクスを併用して行なった。クライオ電子顕微鏡による構造を目標に、新たなパイオニア転写因子とヌクレオソームとの複合体の再構成法を検討した。(項目4)ヌクレオソーム高次構造と転写制御能の相関関係の解析:引き続き、オーバーラッピングジヌクレオソームおよびその類縁体の溶液構造とダイナミクスを、X線小角散乱法と分子動力学シミュレーション法により解析した。加えて、ゲノム解析と構造生物学的解析を併用することで、これらの特殊なヌクレオソームと転写制御との関連を明らかにすることを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(項目1)「リンカーヒストンにより構築されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、昨年度に引き続きリンカーヒストンの機能ホモログDEKとヌクレオソームとの複合体のクライオ電子顕微鏡解析を行い、単粒子解析によってDEK-ヌクレオソーム複合体の立体構造情報を得た。加えて、リンカーヒストンH1が結合したヌクレオソームのクライオ電子顕微鏡データの取得も行い立体構造情報を得た。(項目2)「ヘテロクロマチンの基盤となるヌクレオソーム高次構造の解明」では、HP1-ジヌクレオソーム-H1複合体のクライオ電子顕微鏡データの取得に成功した。加えて、新たなヘテロクロマチン因子を加えた複合体の調製を行なった。(項目3)「遺伝子発現制御領域に形成されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、ヒストンH3mm18バリアントを含むヌクレオソームの立体構造をクライオ電子顕微鏡による単粒子解析によって決定した。そして、H3mm18ヌクレオソームでは、DNAの運動性が高いことが明らかになった。また、H3mm18ヌクレオソームの構造的性質と細胞における機能の解析を、生化学、ゲノミクスを併用して行なった。その結果、H3mm18の細胞分化における機能の一旦が明らかになった。並行して、パイオニア転写因子群の発現精製系の確立を行なった。そして、それらとヌクレオソームとの複合体の調製法を検討した。(項目4)「ヌクレオソーム高次構造と転写制御能の相関関係の解析」では、転写開始点に形成されるオーバーラッピングジヌクレオソームとその類似体の溶液構造とダイナミクスの解析を行い、溶液構造のモデルを得ることができた。また、ゲノミクス解析を行うことによって、これらの特殊なヌクレオソームの存在領域と当該領域の遺伝子転写との相関の解析を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
計画している4項目において、順調に進展しているため、計画通りに研究を推進する。特に、(項目1)「リンカーヒストンにより構築されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、引き続きDEKとヌクレオソームとの複合体の高分解能での構造解析に注力する。今後は、変異体解析やゲノミクス解析などを行うことによって、DEKの機能とそのクロマチン形成における役割を明らかにする。(項目2)「ヘテロクロマチンの基盤となるヌクレオソーム高次構造の解明」では、昨年に引き続き、HP1-ジヌクレオソーム-H1複合体のクライオ電子顕微鏡による高分解能構造解析を目指しつつ、新たなヘテロクロマチン因子を追加することにより、さらなる高次のヘテロクロマチン構造の再構成とその構造解析を目指す。(項目3)「遺伝子発現制御領域に形成されるヌクレオソーム高次構造の解明」では、転写に関連したヒストンバリアントや翻訳後修飾を含むヌクレオソームの立体構造解析を進める。そして、それらのクロマチン転写における役割の解明を目指す。並行して、パイオニア転写因子群とヌクレオソームとの複合体の立体構造解析を推進することで、遺伝子発現制御におけるパイオニア転写因子の共通性と特異性の解明を目指す。(項目4)「ヌクレオソーム高次構造と転写制御能の相関関係の解析」では、リンカーヒストンや転写伸長因子群のクロマチン転写における役割を、in vitroヌクレオソーム転写系を用いて明らかにする。
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