研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
18H05536
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
早戸 良成 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (60321535)
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研究分担者 |
久世 正弘 東京工業大学, 理学院, 教授 (00225153)
清水 格 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 准教授 (10400227)
鈴木 州 神戸大学, 理学研究科, 助教 (20243298)
ウェンデル ロジャー 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20647656)
石塚 正基 東京理科大学, 理工学部物理学科, 教授 (40533196)
西村 康宏 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (40648119)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ニュートリノ振動 / 大気ニュートリノ / 陽子崩壊 / 光センサー / データ収集システム |
研究実績の概要 |
スーパーカミオカンデは2020年8月に硫酸ガドリニウムを投入、中性子探索能力をこれまでの倍程度に高めた状態で、新たにSK-VIとして実験を再開した。較正用の中性子源からの中性子吸収時間を用いて、検出器中のガドリニウム濃度が投入量とよく一致していることや、検出器内に一様にガドリニウムが分布していることを確認した。ガドリニウム投入については、論文としてまとめ、Nucl.Instrum.Meth.Aに掲載された。また、宇宙線μ粒子が生成する平均中性子数の測定に成功し、これがKamLAND実験で測定された結果とよく一致していることを確認した。さらに、太陽ニュートリノ事象や大気ニュートリノ事象の検出効率などが、純水だった状態と変化がないことを確認した。一方、既にSK-IVまでに確認されていた、大気ニュートリノや加速器ニュートリノにより生成する中性子数が、データよりもシミュレーションの予言が多いことが、ガドリニウム投入後のデータでも確認され、物理模型の検討が必要であることが明らかになった。 ニュートリノ・原子核散乱のシミュレーションプログラムについて、以前より継続して開発、SKやT2Kで用いられているNEUTについての総説(論文)がEur.Phys.Jに掲載された。また、核内におけるハドロン反応について、複数のシミュレーションプログラムを用いたデータとの比較についての論文もPhys.Rev.Dに掲載された。 ハイパーカミオカンデに関しては、光センサーの破損が検出器全体に影響を及ぼさないための防爆カバーについて、軽量の樹脂製のカバーを設計、製作したほか、ステンレス製カバーもさらに改良を加え、試験を実施、実用に耐えるデザインを決定した。また、エレクトロニクスの開発では、水中でも自己較正を可能とするための基本設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スーパーカミオカンデへのガドリニウム投入が完了し、そのデータを用いた解析も進んでいる。中性子同定手法も、当面の解析で利用可能なものは確立、中性子の吸収時間や宇宙線による中性子生成量について、期待とよく一致していることも確認できており、今後、ニュートリノ振動解析や陽子崩壊探索が可能である見通しがついた。また、中性子同定を用いない場合の(純水と同様の)大気ニュートリノ、太陽ニュートリノ及び加速器ニュートリノ解析を行うことが、従来の事象再構成ソフトウェアや物理解析ソフトウェアを用いて可能であることも確認している。実際の物理事象解析では、特に水中の光透過の理解と、これをシミュレーションに正確に反映することが重要であり、この作業も順調に進んでいる。検出器シミュレーションは、ガドリニウムが中性子を吸収する過程、ならびに吸収時に放出されるガンマ線のエネルギー分布を正確に再現することが求められる。このためのシミュレーションプログラム改良も進んでおり、ほぼ完成した状態となっている。 ハイパーカミオカンデの性能向上については、軽量化して性能を向上した防爆ケースの評価ならびに、より最適化したステンレス防爆ケースの試験が完了し、デザインを固めることができている。エレクトロニクスについては、水中に設置してしまうと困難な、電荷ならびに時間測定の安定性の長期間の担保を実現するための較正用電子回路の開発をすすめた。こちらについてもほぼ完成している。また、電荷・時間測定そのものについても、これまで以上の性能を担保するための回路設計のさらなる改良を進めて、試作機でその性能を確認した。また、水中でケーブルを接続するための機器についても開発が順調に進んでおり、コストを下げながら性能と信頼性を保った機器の見通しがついた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度はこれまでの研究成果をとりまとめ、成果としてまとめる。陽子崩壊については、主要なモード崩壊モードについて、解析を改良、可能な限り有効体積を広げたデータセットを用いた探索行った結果をまとめる。大気ニュートリノデータについても有効体積を広げたニュートリノ振動解析の結果、特に質量階層性の解析の結果をまとめ、国際会議で報告した後、論文としてまとめる。また、スーパーカミオカンデにガドリニウムを投入した後のデータについて、中性子同定手法の確立する。並行して、ニュートリノ・原子核散乱反応や、水中での中性子反応のシミュレーションプログラムの改良、データとの比較による評価を実施する。最終的にこれらの成果を用いて陽子崩壊、大気ニュートリノ振動、また、これらのサンプルを用いる暗黒物質探索などの解析を実施、感度の向上を確認する。太陽ニュートリノ事象解析に悪影響を与えてきたラドンなどの背景事象源低減のために開発してきたラドン侵入防止用樹脂も本格的にスーパーカミオカンデに導入される予定であり、これを用いたことによるラドン低減の成果ならびに背景事象数の変化についても結果としてまとめる。ハイパーカミオカンデにおける適用可能性とその効果を見積もる。ハイパーカミオカンデ用光センサーについては、連鎖爆発防止用ケースのデザインの最終決定とこれをもちいた場合の性能評価の結果をまとめる。また、ハイパーカミオカンデ用エレクトロニクスについては、これまで開発したデジタイザ回路、同期回路、高電圧電源、水中コネクタ・ケーブル、ならびに容器を統合した状態での試験を実施、その性能を検証する。
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