研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
18H05538
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石原 安野 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (40568929)
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研究分担者 |
吉田 滋 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (00272518) [辞退]
永井 遼 千葉大学, 大学院理学研究院, 特任助教 (00801672)
伊藤 好孝 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (50272521)
間瀬 圭一 千葉大学, 大学院理学研究院, 助教 (80400810)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ニュートリノ検出器 / 大気ニュートリノモデル |
研究実績の概要 |
光検出器の主要部品である光電子増倍管の較正を進めその情報のデータベース化、及び光検出器の主要部品である読出し基板のプロトタイプの製作を開始した。読出し基板を含んだ検出器の温度変化や輸送時振動に対する堅朗性を確認した。詳細な性能評価から検出器としての性能を満たすことを確認、しかしノイズレベルが比較的高い点が懸念事項として残り、その改善が今後の課題である。氷河中の光の伝搬性質の不定性低減を目指し光検出器モジュールの中に組み込まれる南極氷河特性較正用LED光源のGEANT4シミュレーションによる最適化を進めると共にプロトタイプ基板の製作を開始した。 これまでに製作されたプロトタイプ機の開発の進展状況や、デザインパフォーマンスが評価され新型光検出器D-Eggが世界12か国から成る国際共同実験で正式採用され2022年の南極点氷河埋設が決定した。南極点での検出器建設を担う米国国立科学財団との取り決めによりD-Eggの正式な国際レビューが開始した。 大気ニュートリノフラックスモデルの精密化については、MeVからPeVといった幅広いエネルギー領域にわたり重要な信号及び背景事象である大気ニュートリノ流量モデルの精密化に向けて、さらにRHICやLHCからの高エネルギー宇宙線ハドロン相互作用データや、気球実験よる高空での大気ミューオン測定データについて検討を行いモデルの検証準備を進めた。 本研究に従事する特任助教の公募を行い1名採用した。2019年3月には、宇宙線やニュートリノ研究とニュートリノ流量モデル作りに従事する研究者32名による国際ワークショップ”Workshop for Atmospheric Neutrino Production in the MeV to PeV range”(2019年3/20-22、名大)を開催し、大気ニュートリノ精密解析の意義や、将来の連携について議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型光検出器D-Eggが国際共同プロジェクトにおいて正式に採用され、南極点氷河への埋設が2022年と決定したことは重要な進展である。このことにより国際共同実験としてのテクニカル審査チームが結成され、新型検出器の性能が要求値を満たすかの詳細な精査が始まった。南極点での安定稼働に向け、また、これまでのデザイン研究で想定してきたよりもより低いエネルギーへの感度も重要となることになり、より厳しい要求が課される点も判明した。このことから部分的なデザインの変更が要求され、その部分においては遅れが生じることとなる。しかし、全体的なクオリティの向上はこれまで以上の速さで進展しており、研究計画内における新型検出器の完成は見通すことが出来る。
近年最新の加速器データによって更新されてきたハドロン相互作用モデルを、これまでに開発され多くの実績がある大気ニュートリノシミュレーションプログラムに組み込み幅広いエネルギー領域に対応可能な大気ニュートリノモデルの枠組み作りを開始した。鍵となるハドロン相互作用モデルや大気ニュートリノシミュレーションの専門家が直接議論できるようなワークショックを開催し統一モデルに向けた土台作りを行った。さらに大気ニュートリノ流量モデリングに従事する研究者を配置し、世界で最も精緻な大気ニュートリノ流量モデルであるHONDAモデルの高度化を推進する体制が整った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は光検出器に使用される部品一つ一つについて、共同研究者内外から成るテクニカル審査チームによるそれぞれ2回の審査をうけ承認されることが必須である。ニュートリノ検出器として重要となる光検出能力の理解に加え、南極点氷河まで輸送、埋設という激しい環境下での安定稼働が必須であるため、機械的強度やおおきな温度変化などに対する耐性を精査する。また、新型光検出器開発における今後の課題は南極氷河表面との安定的なコントロールとデータ取得を可能とする読出し基板の改善である。これを完成させることが非常に重要である。特に南極点にあるコントロールルームからの安定操作を保証すべくIceCube実験側との綿密なコミュニケーションを図ったうえでの完成を目指す。
大気ニュートリノモデルについては、引き続きハドロン相互作用モデルと大気ニュートリノシミュレーションプログラムを精査すると共に、最新の宇宙線観測データをも取り入れることで、さらに幅広いエネルギー領域において信頼性の高いプログラムの開発を行う。また、モデルのインプットとなる高エネルギー宇宙線のハドロン相互作用データについて、特に10GeV以上の高エネルギーで重要となる超前方K中間子測定についての測定の検討を進める。さらに、モデルの検証手段として有用な大気ミューオン測定について、様々な手法を用いて検討していく。
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