研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
18H05540
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 温子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (50353371)
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研究分担者 |
坂下 健 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (50435616)
中島 康博 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (80792704)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 希ガス検出器 / ニュートリノ / 二重ベータ崩壊 |
研究実績の概要 |
「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0νββ)」探索における現状の限界を打破することを目指して、希ガス検出器による新しい測定原理・技術の開発を行っている。 我々は電離電子の検出にELCC(ElectroLuminescence Collection Cell)と呼ばれる信号読み出し機構を提唱し開発を進めている。開発したELCCモジュールを3個並べた合計168チャンネルのシステムを180リットルのガス容器に設置し、同じく我々が開発した信号処理回路で信号を読み出した。ガス容器内にはキセノンガスを封入し、純度を保つためにつねに純化器系を循環させる、キセノン中の水分量を0.2 ppm以下に保つことができるようになった。これにより、511キロ電子ボルトの電子の測定に成功した。得られたデータについて、エネルギー較正、光素子の非線形性の補正、光量の時間および位置依存性の補正を開発し適用することで半値全幅で0.17%というエネルギー分解能が得られた。一方、問題点としてELCC間のモジュールの間で、ELCCに負荷している高電圧による放電が頻繁に起きた。そのため、放電を防ぐためのさまざまな工夫を行ったELCCモジュールを製作した。信号処理回路の応答が不安定であるという問題も見つかったが、FPGA上で制御回路との通信を担う部分のファームウェアを改良することで解決した。 全く新しい技術として、136Xeが二重ベータ崩壊した際の娘核であるバリウムイオンを検出する方法の開発に取り掛かった。まずは、バリウムイオンをトラップするためにキセノンガス中で電極部にのみ固体キセノンを作ることを試みた。有限要素法を用いた熱設計に基づきテストセットアップを設計・製作し、液体キセノンで電極を外部から冷却することで固体キセノンの薄い層を作ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
キセノンガス循環系のポンプの故障に見舞われ、一部のキセノンに大気が混入して使用できなくなった。対策として、信頼性の高い循環ポンプと真空ポンプで循環系を再構築した。その再構築に4か月かかった。 ASICによる信号処理回路の小型化を検討しているが、想定していた0.35umプロセスでは必要な電力が大きくなりすぎることが判明した。そこでASICの代わりに単体素子を組み合わせた回路で工夫することで小型化することを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
キセノンガスTPCとしては、改良したELCCモジュールを12個設置することで、さらに高いエネルギーの電子を用いた測定を進め、世界最高エネルギー分解能を目指す。飛跡を用いた電子1個の飛跡と、二重ベータ崩壊の場合の電子2個の飛跡の識別の実証を、実データを用いて進める。 バリウムイオンタグについては、キセノンガス中で運用できるバリウムイオン源を開発してテストを進める。バリウムイオンをトラップするのに最適な方法を検討しテストする。 信号処理回路の小型化については、0.25umプロセスでのASIC製作と単体素子の組み合わせの双方について検討を進め、どちらを採用するか決定する。 TPCでは、電離電子をELCCによって検出しているが、電離電子がガス中を移動する間に拡散し観測できる飛跡のパターンはぼやけたものになってしまう。そこで、電離電子と同時に生成される陽イオンを検出して飛跡を再構成する手法の開発を進めている。我々は陽イオンが電極に到達した際に放出される電子が生成するエレクトロルミネッセンス光を捉えることに成功しているが、今後の研究で、電極の材質を最適化することで電子の放出確率を向上することを目指す。
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