研究領域 | 配偶子インテグリティの構築 |
研究課題/領域番号 |
18H05545
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 克彦 九州大学, 医学研究院, 教授 (20287486)
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研究分担者 |
平尾 雄二 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, ユニット長 (10355349)
吉崎 悟朗 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70281003)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 卵母細胞 / 体外培養 |
研究実績の概要 |
体内と体外培養系における卵母細胞の分化過程の違いをトランスクリプトームの比較により行った。その結果、体内の卵母細胞の分化過程において、原始卵胞に特異的に発現する遺伝子群が選択的に発現していることが明らかとなった。このことは体外培養での卵母細胞の成長は原始卵胞で留まることなく進行する(すなわち体内の環境でのみ原始卵胞が形成される)事実とよく一致していた。次に原始卵胞中の卵母細胞に特異的に発現する遺伝子のGO解析を行ったところ、低酸素と細胞外マトリックスに関連する因子の発現が上昇していおり、これらが原始卵胞中の卵母細胞を静止させる因子である可能性が示唆された。 原始卵胞における卵母細胞の遺伝子発現と活性化した一次卵胞における遺伝子発現を比較したところ、他の卵母細胞の分化過程と比較して、短時間に大きな遺伝子発現の変化があることを突き止めた。この遺伝子発現の変化には、母性因子(Npm2, Padi6, Zar1)の発現上昇や卵母細胞に特異的に発現するレトロトランスポソンの発現上昇を伴っていた。また代謝関連遺伝子のダイナミックな変動が認められ、変動遺伝子のGO解析から異化反応から同化反応にスイッチしていることが示唆された。これと一致して、この時期には卵母細胞の急激な増大が認められた。これらの遺伝子発現の変化は、これまで明らかにされていない原始卵胞中の卵母細胞の初期活性化メカニズムを解く重要な手がかりとなった。 体外培養系の汎用性を向上させるために、これまで卵胞構造を作るために用いられてきた胎児卵巣組織を多能性幹細胞から体外培養系で再構築することに着手した。今年度までに効率的に中間中胚葉(卵巣組織の起源)を誘導する培養条件を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体内と体外培養系における卵母細胞の分化過程の比較から、原始卵胞の静止を制御すると考えられる因子を単離することに成功した。これらは低酸素や細胞外マトリックスに関連するものであり、今後の体外培養系において、機能的な解析が可能であると思われる。組織学的に見ても、血管が少なく、細胞外マトリックスの多い卵巣皮質に原始卵胞が集中しており、これらの因子が関係している可能性は十分に考えられた。 予想外にも原始卵胞の初期活性化には多くの遺伝子が変動することが明らかになった。これらの変動には母性因子の発現を伴うことから、卵母細胞の成熟に向けた遺伝子発現の変化がすでにこの時点で起こっていることを示唆している。体外培養系ではこれらの遺伝子の機能を容易に解析することができる。よって、次年度よりこれらの知見をもとに、この時期に発現変動する遺伝子の機能解析を行うことする。 卵巣組織の再構築においては、ほぼ予想通りにレポーターES細胞の樹立に成功し、それらから目的の細胞を分化させることに成功した。現在中間中胚葉までの分化に成功しており、次年度における研究の展開の基盤を十分に形成することができたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ES細胞から卵母細胞を誘導する培養系において、低酸素条件を試すことにより、静止した原始卵胞が形成されるかについて解析する。具体的には低酸素で培養することにより原始卵胞の卵母細胞特異的に認められる転写因子Foxo3の核内移行について解析する。同時に細胞外マトリックスについて培養液中に様々なマトリックスを加えることにより、原始卵胞が形成されるかについて解析する。 原始卵胞中の卵母細胞が初期活性化する際に上昇する遺伝子の機能について解析する。具体的にはこれらの遺伝子をES細胞でノックアウトして卵母細胞を誘導する。これらの卵母細胞の分化過程における初期活性化の有無を指標にそれぞれの遺伝子の必要性を検討する。 卵巣組織の体外再構築については中間中胚葉から生殖隆起の細胞へ分化させる培養条件を検討する。具体的にはNr5a1/Sf1/Ad4bp遺伝子座にレポーターを導入したES細胞を用いて、様々な分化条件を検討する。
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