本年度の研究行政の概要は以下の通りである。 (1)精巣組織の再構築:前年度に構築した卵巣組織の分化培養系を応用して、精巣組織の再構築系を行なった。生殖巣の支持細胞系列(雄ではセルトリ細胞、雌では顆粒膜細胞)は同じ前駆細胞から雌雄特異的なシグナルにより分化する。本研究では、その分化系を再構築して、マウス多能性幹細胞からセルトリ細胞を分化誘導した。分化誘導したセルトリ細胞は生体内のものと同等の遺伝子発現を有していた。現在これらの成果を論文としてまとめている。 (2)原始卵胞を維持するシグナルの解析:これまでの研究で卵母細胞への圧縮ストレスが原始卵胞の維持に必要なことが明らかにされている。本年度において圧縮ストレスは原始卵胞を活性化するシグナルの受容体に作用して、卵母細胞の静止状態を維持していることを明らかにした。現在これらの詳細なメカニズムを解明するとともに、これまでの成果を論文にまとめている。 (3)多能性幹細胞における性染色体セット変換方法の開発:性染色体の異常は卵母細胞の発生を停止させる原因であることから、染色体の異常を正常化する技術を開発した。具体的には多能性幹細胞において低頻度で起こるY染色体の喪失とX染色体の不分離(片方の娘細胞に2本のX染色体が分配される)を利用して、XYまたはXOをもつ多能性幹細胞からXXに変換したものを単離した。これらの性染色体セットを転換して得られたXXをもつ多能性幹細胞からは発生能をもつ卵子が誘導された。これらの成果はNature(2023 615:900-906)に論文発表した。
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