研究領域 | 配偶子インテグリティの構築 |
研究課題/領域番号 |
18H05546
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小川 毅彦 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (50254222)
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研究分担者 |
鈴木 貴紘 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (00553661)
木村 啓志 東海大学, 工学部, 准教授 (40533625)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 精子形成 / 器官培養 / 組織再構築 |
研究実績の概要 |
In vitroマウス精子形成の成功は、牛血清アルブミン製剤であるAlbuMAXを培養液に加えたことが重要な契機となった(Nature 2011)。本研究において私たちは、AlbuMAXから抽出した脂溶性物質に精子形成誘導能のすべてが含まれていることを見いだし、メタボローム解析とリピドーム解析という網羅的解析技術を用いて、重要因子がビタミンEなどの抗酸化物質とリゾリン脂質であることを突き止めた。これにより化学組成が明らかな合成培地を用いての精子形成の誘導が可能となり、必要な因子のすべてが明らかとなった(FASEB J 2020)。抗酸化剤とリゾリン脂質はラットの精子形成にも有効であり、これまで不可能だったin vitroでの半数体産生が可能となった(Sci Rep 2021)。それら円形精子細胞を用いた顕微授精によりラット産仔の産生にも達成され、in vitro精子形成が健常な精子産生となっていることを確認できた(投稿準備中)。だが、in vitroでの精子完成(半数体細胞が精子になるまでの形態変化と成熟)は不完全であり、今後の課題である。さらに私たちは、培養下の精巣組織と生体内精巣組織のトランスクリプトーム解析(マイクロアレイ)を行い、培養下特有の特徴の解析を行った。その結果、培養下では炎症反応・自然免疫の活性化が極めて高度に生じていることが明らかとなった(BBRC 2020)。さらに、single cell RNA-seqによる詳細な検討も行い、in vitro精子形成を遺伝子発現の観点から評価し、生体内精子形成に近似していることを確認した(論文投稿中)。これらの成果は本研究がその目的達成に向かって順調に進行していることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AlbuMAX内に含まれる重要因子を同定することは、非常に困難な作業であり、これに一定の目途がたち、in vitro精子形成における重要因子がビタミンEなどの抗酸化物質とリゾリン脂質であることを突き止めたことは大きな進展だと考えている。実際、これにより化学組成が明らかな合成培地を用いての精子形成の誘導が可能となり、必要な因子のすべてが明らかとなった(FASEB J 2020)。また、抗酸化剤とリゾリン脂質はラットの精子形成にも有効であり、これまで不可能だったin vitroでの半数体産生が可能となった(Sci Rep 2021)。さらにin vitroで産生された円形精子細胞を用いて顕微授精を行い、ラット産仔の産生も達成された。in vitro精子形成が健常な精子産生となっていることを示すものである(投稿準備中)。また私たちは、培養下の精巣組織と生体内精巣組織のトランスクリプトーム解析(マイクロアレイ)、single cell RNA sequenceでの解析も行い、in vitroにおいては高度の炎症反応が惹起されていることを見出した。ただし、精子形成そのものは生体内の場合に近似していることが確認された(論文投稿中)。
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今後の研究の推進方策 |
マウスでのin vitro精子形成は効率も向上し、安定した結果が得られている。また培養液の改良等でラットにおいてもin vitroで精子細胞(半数体)までの精子形成が達成された。今後は、げっ歯類以外の動物にも応用できるin vitro精子形成法を開発していく。 また、培養下でES細胞を連続的に分化誘導し、エピブラスト、中胚葉、生殖腺原基の順に形成する試みを行う。計画研究1のグループとの共同研究を開始しており、ES細胞から精巣体細胞(特にセルトリ細胞)を誘導することを目指す。機能的なセルトリ細胞の確認は、胎仔マウス精巣組織とのキメラによる精細管再構成実験と、Amh-Treckマウス精巣への移植とジフテリア毒素入り培地での培養により行う。最終的には、ES細胞から作製された細胞集団からのde novo再構成精巣を目指す。マウスで確立するその成果を、哺乳動物全般に応用できる普遍的な技術に発展させる。
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