研究概要 |
早稲田チームは引き続きバブル関連の実験研究(短期においてノイズトレーダーが存在する場合),不動産価格とレントの関係に関する実験研究を継続し,論文を作成中である.これらと共に,株式主権の問題点,大企業の資金調達問題,コーポレイトガバナンスなど,市場の持つ問題点に関わる包括的な論文を作成した. 信州チームは,同じ財を複数単位取引する,自主流通米入札市場で以前実施されたオークションルールのパフォーマンスの検証,Demand Reduction現象の観察をもとに従来のコメ市場とは異なる落札ルールに基づく市場実験を実施し,論文を作成中である.本年度の成果として,セカンド・プライス・オークション実験がなぜ理論通りにうまくいかないのか,に関する論文を完成した.一番高い入札者が二番目の価格を払うのがセカンド・プライス・オークションである.このオークションでは入札者が真の価格を表明するのがベストであるが,実験では高めの入札価格が観察されている.これを被験者のスパイト行動としてとらえ,実験を実施している.理論モデルを構築したところ,ナッシュ均衡が大幅に小さくなり,実験もこれをサポートしている.従来の利得のみに基づく行動では説明できない現象を説明している. 大阪チームは市場という公共財の供給問題を最も原始的な形(囚人のジレンマ)でとらえ,メイト・チョイス・メカニズムをデザインし,実験を継続している.まず,ほとんどの被験者がナッシュ型の行動をせず,Backward Elimination of Weakly Dominated Strategiesを用いていることを発見している.実験では90%を超える被験者が協力を選択し,しかも協力率が初回から8割を超えることを観察している.一方,囚人のジレンマのみだと協力率は8%前後である.さらには,メイト・チョイス・メカニズムは,利得最大化行動ばかりでなく,互恵行動や不平等回避行動の場合でも協力が達成される仕組みであることも見いだしている.さらには,20世紀後半,なぜ核戦争が起こらなかったのかを説明する原理として,メイト・チョイス・メカニズムが有効であることも発見している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各チームとも,ここ1,2年の間に発見したアイデア,実験結果がようやく主要な研究成果に結びつき始めている.そのため,(1)ではなく,(2)と評価している.最終年度にこれらの研究成果をまとめる予定である。
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