研究概要 |
今年度は, 実験経済学のための理論モデルの多面的な再検討, 海外の研究者との共同研究, そして脳神経科学の器材を用いMRI実験を行なった. 具体的には, 理論モデルの再検討として, まずシグナリングの理論を実験で検証した心理学者の報告による研究会, そして理科系の科学者チームと1ヶ月間実験研究を行なった経済学者の報告による研究会を開催し討議した. 外部の研究者による実験の動機, 設計, 実施, データ整理, そして結果のる出の紹介から得られたものは大変大きく, 報告者との研究交流は継続中である. 同時に海外(カリフォルニア工科大学)の研究者とは適宜理論モデル化と実験設計について意見交換を継続しており, 今年度は情報でなく実物的な変化に対して, 市場と組織はどのように反応するかを実験する方法論について議論を行なった, そして脳神経科学からの試論的接近については, これまでは公開された情報からいかに自ら理解できる確かな情報を汲み取るかが重要であり, その程度次第では(特に市場全体で中間程度の情報量しか汲みとれない投資家は)取引報酬を上げにくいことが分かっていた. こうした中間的な情報取得投資家は, どのような心理状態で投資意思決定を行っているかを研究すべく, MRI実験を行った. 結果は現在解釈中であるが, 現時点で中間的な情報取得投資家の投資意思決定時の脳内反応は, 最も多くの情報を取得した投資家や少ない情報しか取得しなかった投資家と比べて, 異なった脳内反応を示していることがわかった. 最後に開催した研究会には, 専攻が経済理論でも実験経済学でもない大学院生が昨年を上回る人数で参加した. 来年度以降も幅広い研究交流を通じ, 理論と実験の間を行き来することの意義をアピールすることで, 実験社会科学の普及と教育にさらなる貢献ができればと考える.
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