研究領域 | 実験社会科学 |
研究課題/領域番号 |
19046008
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巌佐 庸 九州大学, 大学院・理学研究院, 教授 (70176535)
|
研究分担者 |
青柳 真樹 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (50314430)
伊藤 秀史 一橋大学, 商学研究科, 教授 (80203165)
井上 達夫 東京大学, 法学政治学研究科, 教授 (30114383)
|
研究期間 (年度) |
2007-07-25 – 2013-03-31
|
キーワード | 累進的処罰 / プリンシパルエージェント / ヘテロジェネイティ / マルチブルセルフ / 行動経済学 / 民主主義と批判 / エージェントメーズモデル / 評判 |
研究概要 |
本研究計画の目的は、社会科学における実験手法の意義と役割について、個別領域を超えた鳥瞰的・メタ理論的な視点から検討することにあった。同時に、他の7つの計画研究班が生み出した具体的な実証知見を、幅広い文脈に位置づけその意味を明らかにすると共に、個別研究に欠けていた視点を補い、さらなる研究展開を促すことであった。 理論班は、今年度は、市場班との合同ワークショップを、2回にわたって行った。これは合理性の議論について大きな進展が得られた。 伊藤は最近の行動経済学の分野における意思決定モデル(不衡平回避,レシプロシティ,参照点依存)を、プリンシパル・エージェント理論に取り入れることで,最適契約がどのように変わるかを解明した。 井上は国際的共同論文集に寄稿し、批判的民主主義のモデルは民主政を試行錯誤的な政治的学習を促進する場として再構築するもので、政治的実践としての社会実験に法哲学的な正義論・正統性論の観点から照明をあてた。 青柳は消費者がネットワーク上のノードに分布し、彼らにとっての財の価値は自分とリンクで結ばれ、しかも同じ財を消費する消費者の数に依存するものとする新しいモデルを解析した。また自然災害等のショックに対する情報の取得と公開について地震等の自然災害や市場の混乱等といったショックに対して政府があらかじめ情報を取得し、それをもとに自ら準備的な措置をとるとともに公衆に対しても備えをするように(非強制的な)指示をする問題を考えた。 また巌佐は、社会のルールを決めて違反者には処罰をするときに、その処罰の強さが違反の害とともに増大するという累進的処罰が広く見られる原因についての理論解析をおこなった。その結果、行為の観測に誤る可能性があり集団の人々の間で効用差に対する敏感さに大きなばらつきがあるときに累進的処罰が社会にとって効率が最適であることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特定領域のまとめの1年であったが、理論班が多数の班の結果を総合的に理解する視点を与える役割は大きかった。班員はそれぞれに新しいアイデアを出して成果をあげた。
|
今後の研究の推進方策 |
特定領域の研究期間はこれで終了するが、これから書物の出版を通じて、成果を社会に還元することが予定されている。一連のシリーズとして刊行される予定である。第1巻では実験の社会科学に対する必要性、実例、などを様々に挙げたものである。最後に特定領域メンバーによる座談会が1日かけておこなわれ、それには巌佐が参加した。そこでは実験社会科学全体の展望や問題点などについて時間をかけて議論してが、理論班の研究成果にもとづいて十分な貢献ができたとおもっている。そのなかでも、とくに人間性のモデルとしての、ある種の非合理性や向社会性、誤りなどを取り込んだ行動選択ルールと、それにもとづいた制度の関連を追求することにより、異なる分野で見られている行動を統一的に理解する道が重要であると考える。
|