高効率スピン源を理論設計することを目標として、本年度は以下の研究成果を得た。 1.ホイスラー合金を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子は、TMR比の温度依存性が大きいために、室温でのTMR比の向上が課題とされている。そこで、ホイスラー合金/MgO接合界面における磁気モーメントの熱ゆらぎが、TMR特性に及ぼす影響を、第一原理電気伝導計算に基づいて理論的に検討した。その結果、界面付近のCo原子の磁気モーメントの熱ゆらぎが、この系のTMR比の著しい温度依存性の要因であることを明らかにした。ホイスラー合金を用いたTMR素子の室温での出力向上のためには、磁気異方性の大きな材料との積層構造を利用するなどの工夫が必要である。 2.TMR素子の微細化に伴う磁化の熱ゆらぎ耐性を向上させる方策として、大きな一軸磁気異方性を示す規則合金を電極に用いる必要がある。そこで、高価なPtを含まない新たな垂直磁気材料の候補として、規則合金FeNiの電極材料としての適用性を第一原理計算に基づいて理論的に検討した。その結果、FeNiは最大で約7×106erglcm3の垂直磁気異方性を示すことを明らかにした。一方、FeNi/MgO/FeNi(001)接合のTMR比の理論値は、最大で50%程度であることが判明した。高出力TMR素子を実現するためには、FeNi/MgO界面にFe原子層を挿入することが有益である。
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