スピン軌道相互作用によるスピン流の電気的な検出を行うため、スピン緩和の抑制が重要な課題となる。InGaAs二次元チャネルを細線化することによりスピン緩和時間が1桁以上増加することを実験的に確認した。このスピン緩和時間の増大は、ゲート電界によって大きく変化することから細線構造たよる閉じ込め効果の他にラッシュバ・スピン軌道相互作用とドレッセルハウス・スピン軌道相互作用が共鳴的に作用して生じていることを明らかにした。この結果は、スピンの緩和抑制に細線構造を用いたメゾスコッピクリング構造を用いたスピン干渉効果とスピンホール効果を組み合わせたスピン流の検出が容易になることを示している。50×50列メゾスコッピクリング列を作製しスピン干渉効果の電気的検出を行った。ゲート電界によりラッシュバ・スピン軌道相互作用を変調すると期待される周期でスピン干渉が制御されることを確認した。一方、チャネルが第二サブバンドで占有されるとスピン干渉の振幅が急激に減少することが判った。こればバンド間散乱による非弾性散乱が干渉効果を壊すことに起因すると考えられる。 また、InGaAs細線構造に、面内磁場を印加することによりスピン緩和時間が増大することを実験的に確認した。これは、スピン軌道相互作用に起因した有効磁場が電子の運動方向に依存するのに対してゼーマン効果により有効磁場の向きがそろえられることによるものと考えられる。スピン緩和時間の増大が印加する面内磁場の方位に依存することを見出した。このことから、細線構造とゼーマン効果を組み合わせることによりラッシュバ・スピン軌道相互作用とドレッセルハウス・スピン軌道相互作用の強度比が求められることを示している。
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