金属におけるスピンホール効果の理論を発展させ、Ptにおける内因性機構の大きさを第一原理計算から評価し、実験とほぼ一致する結果を得た。また、その電子状態を詳細に検討しX点およびL点近傍の縮退構造が共鳴的にスピンホール伝導率に寄与していることを見出した。一方、金で最近見出されている異常に大きなスピンホール効果を、スキュー散乱による外因性機構で解析する試みを行った。不純物を記述するアンダーソン模型が満たすべき条件を絞り込み、単なる仮想束縛状態の形成だけではなく、近藤ピークの出現が必要であることを明らかにした。不純物周りの電子状態計算を行い、金の中の鉄不純物がその候補となることを見出した。これらは金属系のスピンホール効果の設計学理を建設する上で基本となる仕事である。 光とスピン流の関連では、励起子のスピンホール効果の理論を発展させた。アルカリハライドや亜酸化銅の励起子状態をスピン軌道相互作用と交換相互作用の両者を取り入れて解析することで、その縮退構造を重心の運動量空間で見出し、その近傍での非可換ベリーゲージ場を計算した。トラップによる加速の下でこのゲージ場により生じる異常速度を評価し、その結果生じる波束の重心の横ずれの量を見出した。これは約100nmのオーダーになり、しかもルミネッセンス光の偏光によって逆方向にずれるという性質を持つことから、観測可能である。このような、幾何学的な原因で誘起される速度の実時間・実空間観測は極めて意義深いものであると考えられる。また、同時に結晶歪みを交流で加えることでやはり励起子の横ずれが同じ周波数で生じることも見出した。
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