スピンと電子が結合した系の光励起とその量子ダイナミックスの理論的研究を行なった。磁性体では、磁気秩序変数であるスピンの場と、電子系が結合して時間変化する。この問題に対して、反強磁性絶縁体状態を基底状態とする二重交換模型に対して電子系の量子力学的時間発展と、スピン系の古典的なLandau-Lifshitz-Gilbert方程式による時間発展を連立して解くことで、光励起後の緩和過程を調べた。その結果、緩和は4つのステージを通して起こることがわかった。まず、初期過程(I)では、スピンの微小な振動が誘起され、対応して伝導帯の状態間でゆっくりとした電子遷移がおこる。スピンの振幅が大きくなり、伝導帯の中で緩和が加速するステージ(II)を通じて、励起電子は伝導帯の底へと到達する。その次には、特定のスピンが反転を起こし、そのサイトに空間的に局在した電子状態がギャップ内に形成され、このギャップ内状態を通じて伝導帯から価電子帯への電子遷移がおこる(ステージ(III))。その後、価電子帯の中で比較的ゆっくりと緩和が起きる(ステージ(IV))。これらの過程を通じて、スピンと電子系の時空構造が「自己組織化」を起こして量子遷移を起こすことを見出した。つまり、電子の遷移に対応する周波数の差でスピン系の運動が駆動され、それが電子系の遷移を引き起こすという構造が、空間的なパターンを作りながら自己生成する。しばしば仮定される断熱近似がこの量子ダイナミクスでは使えないこと、量子力学が、空間的不均一性を引き起こすこと、など多くの重要な知見が得られた。
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