研究概要 |
本年度は, 非磁性半導体中にスピン軌道相互作用を用いてスピン偏極を作り出し, これを検出することに注力した. まず, スピン軌道相互作用の強い系による環状電流に着目し, これを周期系にしたチェーンモデルを考えた. ここに強束縛近似を導入し, スピノル方程式を解析的に解くことに成功した. その結果, 干渉効果を操作するための微弱な磁場によって100%のスピン偏極を持つ電流をえられることを理論的に導くことができた. この計算を更に非周期系に拡張し, 条件を選べば単一リングであっても極めて高いスピン偏極率を得られることを示した. この結果は, 特許申請すべく準備中である. これらの結果を踏まえ, まず系に擾乱を与えずにスピン偏極を測定する実験的手法の確立を行った. このため, 量子細線の側面に結合した量子ドットの電位を時間的に振動させ, その遮蔽度合いを調べることによる励起状態測定法を使用し, 実際にスピン偏極を測定できることを, 磁場によるゼーマン分裂を使ったスピン偏極状態について実験的に実証した. これを更に発展させ, ゼロ磁場でもスピン偏極を検出できるパルススキームを開発した. ゼロ磁場でのスピン偏極を実際に検出すべく, (In, Ga)As/GaAsの格子不整合系での2次元電子系成長を試み, In組成20%まで高品質2次元電子系が成長できることを確かめた.
|