研究概要 |
強磁性半導体(Ga, Mn)Asを光励起すると、キャリアの非平衡状態がスピン・軌道相互作用を経由してスピン系に対してトルクを与え、磁化が才差運動を行う。スピン流の観点で、金属層と(Ga, Mn)As層との界面を介した近接効果で光励起才差運動の制御が可能かを調べること狙い、Pt/(Ga, Mn)AsおよびFe/(Ga, Mn)Asを作製し、170fs光パルスによる実験を行ったところ、才差運動の周波数と振幅に変化が現れた(小林らにより11th Joint MMM-Intermag Conf.で2010年1月21日に発表)。 大気中でアニールした(Ga, Mn)As結晶薄膜(25nm)上にPt、Feを電子ビーム蒸着して試料とした。(Ga, Mn)As薄膜のMn組成はx=0.045である。光励起と才差運動の検出は、fs-Ti:saph.レーザを光源とする超高速時間分解磁気分光法により行った。才差運動は、磁気光学信号の時間振動として観測される。有効磁場過渡応答を組み込んだLLG方程式で実験結果を解析した。 有効磁場μ_0H_0(以下B_0)とギルバートダンピング定数αの金属層厚依存性を調べたところ、金属層厚の増加とともにB_0は減少し、αは増加する傾向が現れた。20-nmFe/(Ga, Mn)As試料のB_0は20-nmPt/(Ga, Mn)As試料と同程度であったが、αはPt試料と比較してかなり大きな値であった。金属層の光吸収で発生する熱による効果でないことは励起光強度依存性により確認した。さらに重要なこととして、前述の傾向が金属/(Ga, Mn)As間にAlAsスペーサー層を導入した試料で顕しく抑制されることを見出した。以上の実験結果は、金属/(Ga, Mn)As界面を介したスピンダイナミクス経路の存在を示している。
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