研究概要 |
昨年度は、界面を介した金属層と(Ga,Mn)As層との間のスピン流の存在を捉えることをねらって、磁化の光励起才差運動の磁化ダンピングを調べ、Pt/(Ga,Mn)As構造での磁化ダンピングの増大がスピンポンピング効果で説明可能であり、両層間で角運動量の流れ(スピン流)があることを見出した。今年度は、なぞとして残ったFe/(Ga,Mn)As構造における巨大磁化ダンピングに絞って研究を進めた。大気中でアニールした(Ga,Mn)As単結晶層(25nm)上に、様々な厚みの多結晶Fe層を電子ビーム蒸着で形成した金属・半導体ハイブリッド構造を試料として用意した。(Ga,Mn)As層のMn組成はx=0.045である。光励起と才差運動の検出は、fs-Ti:saph.レーザを光源とする超高速時間分解磁気分光法により行った。才差運動は、磁気光学信号の時間振動として観測される。得られた実験データは、調和振動モデル、ならびに、有効磁場過渡応答を組み込んだLLG方程式で解析した。その結果、当初想定していなった新現象の発見を含む非常に多くの知見を得ることができた。具体的には、両層の磁化の相対配置に依存して磁化の才差運動の減衰が大きく変化する現象を世界に先駆けて見出した。2つの磁化が完全に平行だと、才差運動の減衰は光励起された(Ga,Mn)As層に固有の散逸過程で決まるのに対し、平行度の低下とともに減衰が増大し、直交状態で最大となる、という現象である。平行度の低下が磁気剛性が相対的に小さいFe層中に磁壁を誘発し、そのようなスピン遷移領域で、光誘起才差運動で(Ga,Mn)As層に生じた角運動量の流れ(スピン流)が消費されることに基づく現象であると結論づけた。これは、界面のスピン状態が層全体のマクロな振る舞いに敏感に反映されることを示す最初の実験例である。現在、一流英文学術誌への投稿を準備中である。
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