本課題は、光で励起された電子系とスピン秩序との相互作用という未踏領域を開拓するものであり、固体物理学における電子・格子・スピン間のエネルギー・運動量交換の新しい学理を切り開くものと位置づけられる。磁化回転や磁化発生が起こる実験条件の明確化を通して、電子系とスピン系の間のエネルギー変換およびスピン流の関与の有無を明らかにする作業を通じて本領域の推進に貢献する。強磁性半導体を主な試料として、以下の4事項を明らかにすることを計画に掲げた。 (1) 磁化に対する光励起効果の明確化 (2) スピン流の関与の有無 (3) 他の物質系への展開。具体的には、金属磁性体と強磁性半導体から成る複合構造における光誘起効果の探索 (4) 円偏光切り替え可能なスピン発光ダイオードの試作。 項目(4)は、当初計画には入っていなかったが、当研究室で研究してきたスピン発光ダイオードの品質が向上して種々の実験が行える水準に達したので、当研究室の独創である円偏光切り替え可能なスピン発光ダイオードの試作を盛り込むことにした。総括研究代表者(東北大・高梨教授)からも激励されてきた研究である。 光誘起による磁化才差運動の機構解明と才差運動のコヒーレント制御は、光とスピンを組み合わせて初めて創出可能な光デバイス、たとえば、光バッファーメモリー、につながるかもしれない重要課題である。また、円偏光切り替え可能なスピン発光ダイオードは、新しい機能を備えた固体小型光源として、光技術とスピントロニクスの融合領域を切り開くものと期待される。
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