研究概要 |
磁性と伝導に関わるスピントロニクス分野における重要なキーワードは,「磁場よる電流制御」と「電流による磁性制御」である。半導体スピントロニクスにおいて前者を実現させるために,半導体へのスピン注入効率の理論的解明が重要である。金属スピントロニクスにおいて後者を実現させるためには,スピン流やスピン軌道相互作用の効果を明らかにする必要がある。平成21年度において以下の研究を遂行した。 (1) 強磁性体/半導体接合,とくにショットキー障壁のあるFe/GaAsとFe/GaAs/Fe接合におけるトンネル電流のスピン分極率の電圧依存性を計算した。その結果,電圧によりスピン分極率が大きく変化し,電圧によるスピン分極率の制御が可能であることを明らかにした。 (2) 遷移金属のスピンホール効果および異常ホール効果について,得られた研究成果の総合報告を行なった。 (3) 強磁性とグラフェン接合系における磁気抵抗効果を計算し,その効果が,強磁性層とグラフェン層の接合によるディラック点のシフトによって出現することを明らかにした。また,強磁性体としてFeCoやFeCr合金を用いると,磁気抵抗効果が非常に大きくなることを示した。 (4) ハーフメタルであるCo2MnSi(CMS)からなる3層膜CMS/Cr/CMSにおける電子状態と磁気状態を第一原理計算手法により計算した。その結果,CoとCrの磁気モーメントは平行に,MnとCrの磁気モーメントは反平行に配列するため,接合界面の乱れにより特異な層間交換結合が可能となることを指摘した。
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